ウラジミール・ナボコフ 野島秀勝訳
ウラジミール・ナボコフ(1899-1977)の『ナボコフの文学講義』を読了しました。ナボコフがアメリカに亡命した後の大学での講義録をもとにした評論集です。取り上げられている作家と作品は、オースティンの『マンスフィールド荘園』(『マンスフィールドパーク』という名前の方がしっくりくるのですが)、ディケンズの『荒涼館』、フロベールの『ボヴァリー夫人』、スティーヴンソンの『ジキル博士とハイド氏の不思議な事件』、プルースト『スワンの家の方へ』、カフカの『変身』、ジョイスの『ユリシーズ』です。その他いくつかの評論が収められています。
思想や概念によって文学作品を語るのではなく、作品の細部から時間的・空間的な具体相として立ち上がってくるものを丁寧に掬い取ろうとするナボコフの姿勢を体現したのが、まさに本書に収録されたそれぞれの講義録であるといえます。文学作品を読むという行為がこの密度で作品と向き合うということなのだとすれば、私のしていることはまるで読書ではないなと思わされてしまうのですが、ナボコフのマジックによって読書の奥深さの一端に触れることで、繰り返し文学作品を読むことの意義というものにも同時に気付かされるのでした。
【満足度】★★★★☆