文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ミシェル・ウエルベック『地図と領土』

ミシェル・ウエルベック 野崎歓

『地図と領土』 ちくま文庫

 

ミシェル・ウエルベック(1958-)の『地図と領土』を読了しました。2010年に発表された本書のテーマを2つのキーワードで表すとすると「アートと資本主義」ということになると思うのですが、本書の主人公は写真及び絵画をその手法とする芸術家であるジェド・マルタンで、作品のプロットにおいて重要な役どころを担う文芸の芸術家として登場するのが有名作家「ミシェル・ウエルベック」です。読者としてはこの現実とフィクションとの捩れが気になって仕方ないのですが、あまりそこだけを強調しても意味がないというのが読了してみての感想でした。

 

性的格差、セックス観光、イスラム原理主義など過激なテーマが話題になりがちなウエルベックとしては拍子抜けするほどに大人しい印象の作品なのですが、よく練られた描写とプロットにはさすがに引き込まれてしまいました。写真や絵画といった言語による表現とはまったく異なる領域の芸術作品を言語において語るという離れ業をかなり高いレベルで実現している作品で、その点においても「さすが」と感心させられます。この作品は平野啓一郎氏の最近の作品にも少なからぬ影響を与えているのではないか、という印象も持ちました。

 

【満足度】★★★★☆