文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ジョン・R・サール『MiND 心の哲学』

ジョン・R・サール 山本貴光・吉川浩光訳

『MiND 心の哲学』 ちくま学芸文庫

 

ジョン・R・サールの『MiND 心の哲学』を読了しました。オースティンと共に言語行為論の主導的な論者であったサールですが、人工知能批判やかの有名な中国語の部屋の議論をはじめ、言語哲学の領域から彼にとってはより包括的なテーマである心の哲学へと主戦場を移していきます。2004年に出版された本書の原題は“MiND: A Brief Introduction”で、心の哲学の入門書として書かれたものですが、内容はとても充実しており、それまで心の哲学において論じられてきた主要な概念や主要な立場がサーベイされた後、サール自身の見解が簡潔な表現によって展開されています。

心身二元論でも唯物論でもないところに自身の立場を置くサールですが、彼は自身の立場を「生物学的自然主義」と呼んでいます。自然主義という20世紀後半以降の哲学におけるいわば「王道」ともいえる立場を標榜しながら、還元的な唯物論ではなく「心」が持つ主観的な性質を掬い上げようとするサールの見解は、自身が認めるように「いいとこどり」の主張であり、それが果たしてうまくいっているのかどうかは疑問が残ります。とはいえ本書は、20世紀後半の心の哲学への入門書として、大変優れた書物になっていると思います。

 

【満足度】★★★★☆