文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

トニ・モリスン『青い眼がほしい』

トニ・モリスン 大社淑子訳

『青い眼がほしい』 ハヤカワ文庫

 

トニ・モリスン(1931-2019)の『青い眼がほしい』を読了しました。1993年にノーベル文学賞を受賞したトニ・モリスンですが、1970年に発表された本書は彼女のデビュー作で。ある黒人家庭に預けられた黒人の少女ピコーラに起こる(あるいは起こっていた)悲劇をその家族の娘である少女の視点から描いた作品です。タイトルにもなっている青い眼(the bluest eye)の美しさという既製の価値観が、それと対比させられてしまうものの存在を浮かび上がらせます。

 

小さな黒人の少女が小さな白人の少女の青い眼にあこがれたのだが、このあこがれの中心に巣食うおぞましさは、この願いをかなえてやった罪深さと似たりよったりだった。

 

物語の語り手であり視点となる少女(クローディア)の存在は、いわば「信頼できない語り手」(もう少し正確にいえば、どこまで信頼してよいのか解らない語り手)であり、著者であるトニ・モリスン自身が「著者あとがき」(1993年)の中で詳しく自己解題しているように、「“取るに足りない”情報を前景に、衝撃的な知識を背景におく技法」として意識的に用いられています。本書の読書を通じて読者である私が感じていたどこか不安な気分は、作者の意図するものであり、狙いどおりの効果をあげているのでした。

 

【満足度】★★★☆☆