文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ミシェル・ウエルベック『服従』

ミシェル・ウエルベック 大塚桃訳

服従』 河出文庫

 

ミシェル・ウエルベック(1958-)の『服従』を読了しました。2015年に発表された本書は、これまでの彼の著作のどれにも増して論争(そしてある場合には実際的な暴力)の引き金になったといわれる作品ですが、その内容は穏健派のムスリムがフランス大統領になるという近未来を描いた小説です。一貫して現代社会の激動を描いてきたウエルベックにとって、真摯に現実と対峙するためには政治的なものを避けて通ることはできないわけですが、マリーヌ・ル・ペンなど実際の政治家を実名で作中に登場させる様など、これまでの彼の小説作法における方法的な「積み重ね」の集大成らしきものも垣間見えて、あらためて感心させられる部分も多かったです。

 

この文庫版の解説で佐藤優氏は、インテリ層の「服従」について語り、知識や教養の脆さというものを指摘しています。その脆さへと向けられるウエルベックの懐疑的な眼差しの強烈さが、本書を書かせたのだと言えるのかもしれません。本書で描かれていた一見すると緩やかな変化こそが実に恐ろしく感じられます。

 

【満足度】★★★☆☆