トーマス・マン 岸美光訳
『詐欺師フェーリクス・クルルの告白』 光文社古典新訳文庫
トーマス・マン(1875-1955)の『詐欺師フェーリクス・クルルの告白』を読了しました。世界各国はもとより、マンの作品は日本でもよく読まれていると思うのですが、本作品の名前については本書を手に取るまで知りませんでした。本書の成立事情については「読書ガイド」と銘打たれた巻末の訳者解説にて詳述されているのですが、本作品はマンが35歳の1910年に書き始められ、幾度とない中断を挟みながら、1954年(マンの年齢はこのとき79歳)になってようやく一応の完成を見たとのこと。
いわゆるドイツの教養小説(ビルドゥングスロマン)の伝統に立脚しながらも、単純にその枠に収まらない余剰なものが本書の魅力を形作っているのだと思いますが、それをそこまで堪能することはできなかったというのが正直なところ。それでも、一例を挙げるならば、徴兵検査の場面で軍医に対して主人公が披瀝してみせる語りやそのロジックなど、印象に残るシーンというものは確かにあって、また機会があれば読み直してみたいと思うのでした。
【満足度】★★★☆☆