文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

L.A.ポール『今夜ヴァンパイアになる前に【分析的実存哲学入門】』

L.A.ポール 奥田太郎・薄井尚樹訳

『今夜ヴァンパイアになる前に【分析的実存哲学入門】』 名古屋大学出版会

 

L.A.ポールの『今夜ヴァンパイアになる前に【分析的実存哲学入門】』を読了しました。著者は、本書カバー裏に記された略歴によれば、ノースカロライナ大学チャペルヒル校の哲学教授で、形而上学心の哲学、科学哲学、認知科学の哲学、形式認識論などの領域を中心に活躍しているとのこと。

 

本書の原題は“Transformative Experience”=「変容的経験」で、まさに本書の主題は著者が「変容的経験」と呼ぶものの内実を明らかにすることにあるのですが、この馴染みのない概念を多少なりとも馴染みやすいものとするために、その「変容的経験」の代表事例として本書で挙げられている「ヴァンパイアになる」というフレーズが邦題として掲げられています。また、哲学的な議論の文脈からいうと、その変容的経験を前にしての「意思決定」が本書の重要なテーマであることを考えると、この邦題はしっくりくるものになっていると思います。「分析的実存哲学入門」というサブタイトルで、本書が取り扱う問いの性格とそこへのアプローチ方法まで明示されているという親切設計のタイトルです。

 

主題が非常に面白いというか、それを浮き彫りにしたところに本書の主要な価値は存在しているのだと思います。ただ、そこまでが哲学の仕事、という側面もあって、それは何とももどかしいところはあるのですが。

 

【満足度】★★★