文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

J. M. G. ル・クレジオ『砂漠』

J. M. G. ル・クレジオ 望月芳郎訳

『砂漠』 河出書房新社

 

J. M. G. ル・クレジオ(1940-)の『砂漠』を読了しました。1980年に発表された本書は、義務兵役代替のために訪れたメキシコ文化への傾倒と本格的な研究をひとつのバックボーンとして生み出されたとされているようです。舞台となるのはアフリカはモロッコの大地(とフランス)なのですが、ル・クレジオは1975年にベルベル人の血を引くモロッコ人女性ジェミアと結婚しています。

 

本書はフランスによる植民地支配に抵抗するサハラの民の闘争を少年ヌールの目から描くパートと、サハラの民の末裔である少女ララの現代における遍歴とを描く二つのパートから構成されています。サハラの砂漠の自然はル・クレジオの筆によって厳しくも叙情的に描かれており、それだけでも美しい作品なのですが、同時に神秘的で霊的なものへの志向とマテリアルな事実性とが物語の中で巧妙な仕方で合わせられ、説得力のある大きな物語が立ち上げられていて、すっかり惹き込まれてしまいました。

 

【満足度】★★★