文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

コルソン・ホワイトヘッド『地下鉄道』

コルソン・ホワイトヘッド 谷崎由依

『地下鉄道』 ハヤカワ文庫

 

コルソン・ホワイトヘッド(1969-)の『地下鉄道』を読了しました。2016年に刊行され、ピュリッツァー賞、全米図書賞をはじめとする数々の文学賞を受賞した話題の作品である本書は、作者にとって第6長篇にあたる作品とのこと。本書の刊行当時を時事的に振り返ってみると、タナハシ・コーツの『世界と僕のあいだに』が全米図書賞を受賞したのがその前年である2015年のことで、折しもブラック・ライブズ・マターをスローガンに掲げる社会運動が大きな動きを見せていた時期にあたります。

 

19世紀のアメリカ南部を舞台にした奴隷の少女の逃亡劇が描かれる本書は、重厚なテーマを扱いながらもいわゆるリーダビリティに富んだ作品で、そのサスペンスフルな展開によって物語に惹き込まれます。「地下鉄道」というフィクショナルな存在が作品を効果的に特徴付けていて、本書の文学的な面白さもそこにあるのだと思いますが、決して安易に収束することがない歴史のリアリティをひとつの物語に繋ぎ止めるための連結環として機能しています。

 

【満足度】★★★