文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

フィリップ・ロス『プロット・アゲンスト・アメリカ もしもアメリカが…』

フィリップ・ロス 柴田元幸

『プロット・アゲンスト・アメリカ もしもアメリカが…』 集英社

 

フィリップ・ロス(1933-2018)の『プロット・アゲンスト・アメリカ もしもアメリカが…』を読了しました。2004年に発表された作品で、作者と“同名”のフィリップ・ロスを主人公とする、いわゆる「ロス本」の一冊です。このロス本を読むのは『父の遺産』に続いて二作目となります。1940年に反ユダヤ主義者として知られるリンドバーグがもしもアメリカ大統領になっていたら…という歴史のIFを扱った作品ですが、そもそもの「ロス本」という作品シリーズ(?)の不思議な設定と相まって、捻じれた作品世界が作り上げられています。

 

訳者の柴田氏があとがきの中でロス作品の語りを評して「(現代文学の常識からすればそんなことが可能なのかと思いたくもなるのだが)作品世界を過不足なく思い描き、描写すべき事物や心理をきっちり描写していく、serviceable(実用的な)と呼びたいたぐいの見事さである」と語っていますが、本当にその通りだと思います。フィリップ・ロスほどに完成度の高い小説を書ける作家はいないのではないかと思わされるほど、稀有な作家だとあらためて感じさせられます。重版未定品切れの翻訳が多いのですが、集英社以外の出版社にも頑張ってもらいたいと願っています。

 

【満足度】★★★★☆