アリ・スミス 木原善彦訳
『冬』 新潮社
アリ・スミス(1962-)の『冬』を読了しました。『秋』に続く四季をタイトルに冠した小説作品群の第二作目となります。シリーズ全体を通して登場人物などに緩やかな繋がりがありつつ、時事を小説世界の中に取り込みながら、場面や人物の心情についての断片的なスケッチのような描写を積み重ねてひとつの季節の記憶を描くという試みのようですが、好き嫌いは分かれる作品なのかもしれません。
人間も社会も人生も一筋縄でいくものではないことをきっちりと描くことができているという点は、優れた小説であるための必要条件なのだと思うのですが、本書に登場するソフィアとアイリスという老姉妹、ソフィアの息子であるアート、そしてアートの恋人を演じることになるラックスのいずれも割り切れない存在であり、一直線に進むことのないストーリーや、同質性と異質性を共に感じさせる社会背景など、読み応えのある作品になっていると思います。
【満足度】★★★★☆