『死刑について』 岩波書店
平野啓一郎の『死刑について』を読了しました。政治的な発言をためらうことなく続けている作者ですが、自身のかつての死刑存置派という立場から、死刑廃止論者へと至るきっかけとなった(緩やかで複数の)体験が、本書では丁寧に語られています。自身の考えをできるだけ率直に語ることに努め、反対派を説得しようとする立場には立たないというのが、本書における作者の基本的スタンスとなっています。
自身が敬愛し共鳴している人々への自然な共感から死刑廃止論へと促されたという作者ですが、これは分人主義として作者が提唱する考え方からの自然な帰結ではないかと思います。それに共感することが出来るか出来ないかという問題と、死刑の存置・廃止に関する議論を、意図して弁別しようとするほどに作者は難しい立場に置かれることになるように思うのですが、そのことに対する自覚も含めて作者の率直さには好感を覚えます。
【満足度】★★★★☆