文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

スティーヴン・クレイン『勇気の赤い勲章』

ティーヴン・クレイン 藤井光訳

『勇気の赤い勲章』 光文社古典新訳文庫

 

ティーヴン・クレイン(1871-1900)の『勇気の赤い勲章』を読了しました。19世紀末の時代にあまりに短い生涯を生きたクレインの代表作で、南北戦争を題材に描かれた「戦争小説」です。同じく19世紀に描かれた『戦争と平和』はいわばマクロな視点で戦争というものを描いているというのが私の認識なのですが、本書は戦争の細部の描写もさることながら、その当事者である主人公の精神の高揚と沈滞とを描き切っているという点にその読みどころがあります。

 

奇妙な高揚感の中で戦地入りした主人公は、やがて戦闘で怪我を負うことがなかった自分には「勇気の赤い勲章」がないことに恥じ入り、さらにはそうした些事をも超越する生と死の境目へと足を踏み入れた後にそこから生還します。短く緊密な小説です。

 

【満足度】★★