文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

トム・マッカーシー『もう一度』

トム・マッカーシー 栩木玲子訳

『もう一度』 新潮社

 

トム・マッカーシー(1969-)の『もう一度』を読了しました。虚構アート集団「国際ネクロノーティカル協会」の一員として活動するというイギリスの作家です(「協会員」としてどのような活動をしているのかは解りません)。本作は彼の初めての小説で、パリの小さな美術系出版社から刊行されて話題を呼んだ作品とのこと。原題は“Remainder”です。

 

事故で記憶の大半を失った主人公は「事故について何も語らないこと」を条件に多額の示談金(日本円にして100億円以上)を受け取るのですが、やがてそのお金を使ってビルを買い取り、大勢の配役を雇って、自分の過去のおぼろげな記憶を「再演」することを始める…というのが、本書前半のストーリーです。このあらすじだけで面白さが伝わってくるのですが、その期待値を最後まで超えることはなかったのが残念な点でした。読み終えてみるとセサル・アイラの作風と似ている気もするのですが、読んだときの衝撃はセサル・アイラの方が上でした。

 

どうでもいい話ですが、求める「再演」のために、屋根から落ちて死んでしまった猫を単なる物のように補充していく狂気は、猫好きの人からすると堪らなく嫌な気分にさせるものかもしれません。

 

【満足度】★★★☆☆