文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

T. E. カーハート『パリ左岸のピアノ工房』

T. E. カーハート 村松潔訳

『パリ左岸のピアノ工房』 新潮社

 

T. E. カーハートの『パリ左岸のピアノ工房』を読了しました。本書のカバーに書かれたプロフィールによれば、作者はアイルランドアメリカの二つの国籍を保有し、世界各地を回った後に本書の執筆時点ではパリに暮らすライターで、本書がデビュー作であるとのこと。訳者自身があとがきにおいて「著者のT. E. カーハートについてはあまり詳しいことはわからない」と述べているくらいで、著名な作家の著名な作品として翻訳されたというよりは、新潮クレスト・ブックスの初期の作品の多くがそうであるように、作品の持つ世界観や雰囲気に惚れ込んで翻訳出版されたものではないかと思われます。

 

本書で描かれるパリ左岸にあるピアノ工房を巡る人々の姿やピアノのある生活、その文化的背景を偏愛する人は数多く存在するのだと思いますが、いささか閉鎖的であるようにも見えるその世界に鼻白んでしまう人も同じくらい存在するのかもしれません。私はといえば、本書に秘められた世界に静かな高揚を覚えるところから始まって、徐々にどこか冷めた視点へとスライドしていくというのが今回の読書体験でした。

 

【満足度】★★★☆☆