文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

2022-01-01から1年間の記事一覧

イタロ・カルヴィーノ『冬の夜ひとりの旅人が』

イタロ・カルヴィーノ 脇功訳 『冬の夜ひとりの旅人が』 白水Uブックス イタロ・カルヴィーノ(1923-1985)の『冬の夜ひとりの旅人が』を読了しました。企みに満ちた小説という印象が強い作品で、「あなたはイタロ・カルヴィーノの新しい小説『冬の夜ひとり…

赤川次郎『三毛猫ホームズの推理』

赤川次郎 『三毛猫ホームズの推理』 角川文庫 赤川次郎の『三毛猫ホームズの推理』を読了しました。「ユーモアミステリー」という評され方が多い作者ですが、本書はれっきとした本格推理小説となっていて、密室トリックや意外な犯人をはじめとして、伏線もき…

赤川次郎『亜麻色のジャケット』

赤川次郎 『亜麻色のジャケット』 光文社文庫 赤川次郎の『亜麻色のジャケット』を読了しました。すっかり大河作品となっている(らしい)シリーズの第三作目にあたるのが本書で、17歳になった主人公の冒険劇が描かれます。中学生くらいで初めて読んだときは…

アンドレイ・サプコフスキ『ウィッチャーⅤ 湖の貴婦人』

アンドレイ・サプコフスキ 川野靖子訳 『ウィッチャーⅤ 湖の貴婦人』 ハヤカワ文庫 アンドレイ・サプコフスキの『ウィッチャーⅤ 湖の貴婦人』を読了しました。ゲームシリーズをはじめとしたメディアミックスでも人気を博したダーク・ファンタジーシリーズの…

赤川次郎『群青色のカンバス』

赤川次郎 『群青色のカンバス』 光文社文庫 赤川次郎の『群青色のカンバス』を読了しました。主人公が読者と共に年齢を重ねるシリーズ作品の第二作目にあたり、主人公は16歳の高校一年生となっています。ミステリーのプロットとしてはかなり行き当たりばった…

筒井康隆『東海道戦争 幻想の未来』

筒井康隆 『東海道戦争 幻想の未来』 新潮社 筒井康隆の『東海道戦争 幻想の未来』を読了しました。新潮社から刊行されている筒井康隆全集の第一巻なのですが、発売が昭和58年のことなので随分と昔の話になります。江戸川乱歩の目に留まり、商業誌デビューの…

ヘニング・マンケル『ファイアーウォール』

ヘニング・マンケル 柳沢由実子訳 『ファイアーウォール』 創元推理文庫 ヘニング・マンケル(1948-2015)の『ファイアーウォール』を読了しました。スウェーデンはイースタ署の刑事クルト・ヴァランダーを主人公とするシリーズ作品の第八作目にあたる本書が…

赤川次郎『若草色のポシェット』

赤川次郎 『若草色のポシェット』 光文社文庫 赤川次郎の『若草色のポシェット』を読了しました。氏の創作したシリーズの中でも異色ともいえるのが「主人公が毎年読者とともに成長する」本シリーズで、本書はその第一作目にあたります。主人公である杉原爽香…

アイザック・アシモフ『われはロボット[決定版]』

アイザック・アシモフ 小尾芙佐訳 『われはロボット[決定版]』 ハヤカワ文庫 アイザック・アシモフ(1920-1992)の『われはロボット[決定版]』を読了しました。「ロボット工学三原則」を掲げて展開される作品群から成る、いわば連作短編集のような構成に…

赤川次郎『忙しい花嫁』

赤川次郎 『忙しい花嫁』 角川文庫 赤川次郎の『忙しい花嫁』を読了しました。たしか後に「花嫁」シリーズとして展開されることになる作品だと思うのですが、その第一作目にあたるのが本書になります。主人公である亜由美の相方(?)となるドン・ファンも登…

J・K・ローリング『ハリー・ポッターと死の秘宝』

J・K・ローリング 松岡佑子訳 『ハリー・ポッターと死の秘宝』 静山社 J・K・ローリングの『ハリー・ポッターと死の秘宝』を読了しました。世界的ベストセラーとなったファンタジーシリーズも第七作目である本書で完結となります。シリーズを通して張られて…

赤川次郎『死者の学園祭』

赤川次郎 『死者の学園祭』 角川文庫 赤川次郎の『死者の学園祭』を読了しました。昔はよく読んでいた赤川作品を無性に読みたくなって手に取ることとなりました。本書は氏の長編第一作にあたるとのこと。物語がクライマックスを迎える箇所で劇中作として戯曲…

村上春樹『スプートニクの恋人』

村上春樹 『スプートニクの恋人』 講談社文庫 村上春樹の『スプートニクの恋人』を読了しました。1999年に刊行された当時に読んだ記憶がありますので、約23年ぶりの読書ということになります。主要な登場人物はすみれという女性で、主人公といっても差し支え…

ホフマンスタール『チャンドス卿の手紙 他十篇』

ホフマンスタール 檜山哲彦訳 『チャンドス卿の手紙 他十篇』 岩波文庫 ホフマンスタール(1874-1929)の『チャンドス卿の手紙 他十篇』を読了しました。世紀末ウィーンを代表する作家のひとりですが、私自身についていえば今回が初めての読書となります。19…

スティーヴン・キング『ダークタワー Ⅴ カーラの狼』

スティーヴン・キング 風間賢二訳 『ダークタワー Ⅴ カーラの狼』 角川文庫 スティーヴン・キング(1947-)の『ダークタワー Ⅴ カーラの狼』を読了しました。作家の集大成ともいえるダーク・ファンタジー作品もシリーズの後半に入って、物語がクライマックス…

J・K・ローリング『ハリー・ポッターと謎のプリンス』

J・K・ローリング 松岡佑子訳 『ハリー・ポッターと謎のプリンス』 静山社 J・K・ローリングの『ハリー・ポッターと謎のプリンス』を読了しました。シリーズ全体を通して見ると、最終章へと向かうための助走といった位置づけの作品になるのだと思いますが、…

J・M・G・ル・クレジオ『パワナ―くじらの失楽園』

J・M・G・ル・クレジオ 菅野昭正訳 『パワナ―くじらの失楽園』 集英社 J・M・G・ル・クレジオ(1940-)の『パワナ―くじらの失楽園』を読了しました。1992年に発表された作品で、短編と言うべき長さのものになっています。タイトルの「パワナ」とは鯨のことで…

コリン・デクスター『謎まで三マイル』

コリン・デクスター 大庭忠男訳 『謎まで三マイル』 ハヤカワ文庫 コリン・デクスター(1930-2017)の『謎まで三マイル』を読了しました。思考の霧の中を彷徨うことで事件の捜査を行うモース主任警部を主人公とするミステリ作品の一作です。いみじくも本書の…

フェルナンド・ペソア『[新編]不穏の書、断章』

フェルナンド・ペソア 澤田直訳 『[新編]不穏の書、断章』 平凡社ライブラリー フェルナンド・ペソア(1888-1935)の『[新編]不穏の書、断章』を読了しました。ポルトガルの詩人・作家であるフェルナンド・ペソアは、イタリアの作家であるアントニオ・タ…

アリ・スミス『冬』

アリ・スミス 木原善彦訳 『冬』 新潮社 アリ・スミス(1962-)の『冬』を読了しました。『秋』に続く四季をタイトルに冠した小説作品群の第二作目となります。シリーズ全体を通して登場人物などに緩やかな繋がりがありつつ、時事を小説世界の中に取り込みな…

カズオ・イシグロ『忘れられた巨人』

カズオ・イシグロ 土屋政雄訳 『忘れられた巨人』 ハヤカワ文庫 カズオ・イシグロ(1954-)の『忘れられた巨人』を読了しました。ハードカバーで刊行された当時に読んで以来、訳7年振りの再読となりました。物語の鍵となる霧の存在感とそれがもたらす忘却の…

『ヘンリー・ジェイムズ作品集2 ポイントンの蒐集品 メイジーの知ったこと 檻の中』

大西昭男 多田敏男 川西進 青木次生 訳 『ヘンリー・ジェイムズ作品集2 ポイントンの蒐集品 メイジーの知ったこと 檻の中』 国書刊行会 『ヘンリー・ジェイムズ作品集2 ポイントンの蒐集品 メイジーの知ったこと 檻の中』を読了しました。収録作品のうち「ポ…

阿部和重『グランド・フィナーレ』

阿部和重 『グランド・フィナーレ』 講談社文庫 阿部和重の『グランド・フィナーレ』を読了しました。2005年に刊行された本書は第132回芥川賞受賞作なのですが、作者がそれ以前に発表した『インディビジュアル・プロジェクション』といった作品や、作者の故…

ヘッセ『デーミアン』

ヘッセ 酒寄進一訳 『デーミアン』 光文社古典新訳文庫 ヘッセ(1877-1962)の『デーミアン』を読了しました。学生時代に岩波文庫で読んだときの訳題の表記は『デミアン』だったと思うのですが、こちらの方が原語の発音に近いということなのでしょうか。1919…

『パウル・ツェラン全詩集Ⅲ』

中村朝子訳 『パウル・ツェラン全詩集Ⅲ』 青土社 『パウル・ツェラン全詩集Ⅲ』を読了しました。本書の内容については、巻末の訳者あとがきの中で次のように述べられています。 この訳詩集の底本には、全五巻からなる、現在刊行されている唯一のパウル・ツェ…

ヘミングウェイ『誰がために鐘は鳴る』

ヘミングウェイ 高見浩訳 『誰がために鐘は鳴る』 新潮文庫 ヘミングウェイ(1899-1961)の『誰がために鐘は鳴る』を読了しました。左派と右派に別れて苛烈な争いが行われたスペイン内戦を舞台にした小説で、長編第一作である『日はまた昇る』に続いて、スペ…

スティーヴン・キング『ダークタワー Ⅳ-1/2 鍵穴を吹き抜ける風』

スティーヴン・キング 風間賢二訳 『ダークタワー Ⅳ-1/2 鍵穴を吹き抜ける風』 角川文庫 スティーヴン・キング(1947-)の『ダークタワー Ⅳ-1/2 鍵穴を吹き抜ける風』を読了しました。本書はシリーズが完結に至った後に書かれた、いわばスピンオフのような位…

米澤穂信『巴里マカロンの謎』

米澤穂信 『巴里マカロンの謎』 創元推理文庫 米澤穂信の『巴里マカロンの謎』を読了しました。シリーズ作品を読んでいたのは、もう随分と昔のことになってしまったため、作品の時系列がよく解らなくなっていたのですが、どうやら時系列としては既刊作品の間…

ゲーテ『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』

ゲーテ 山崎章甫訳 『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』 岩波文庫 ゲーテ(1749-1832)の『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』を読了しました。ドイツの教養小説(Bildungsroman)の古典作品として知られる本書ですが、これまでは手に取る機会がなく…

大江健三郎 文/大江ゆかり 画『ゆるやかな絆』

大江健三郎 文/大江ゆかり 画 『ゆるやかな絆』 講談社文庫 大江健三郎の『ゆるやかな絆』を読了しました。エッセイ集『恢復する家族』の続編とでもいうべき作品で、原著は1996年に刊行されています。1994年のノーベル文学賞受賞の時期についての回想をはじ…