文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

2020-12-01から1ヶ月間の記事一覧

ハーディ『テス』

ハーディ 井上宗次・石田英二訳 『テス』 岩波文庫 トマス・ハーディ(1840-1928)の『テス』を読了しました。原題を直訳すると「ダーバヴィル家のテス」ですが、日本では単に「テス」の翻訳名で知られている作品です。主人公であるテスが苛烈な運命に巻き込…

J・コルタサル/O・パスほか『短編コレクションⅠ』

J・コルタサル/O・パスほか 木村榮一/野谷文昭ほか訳 『短編コレクションⅠ』 河出書房新社 池澤夏樹個人編集による世界文学全集の一冊として刊行された『短編コレクションⅠ』を読了しました。南北アメリカ、アジア、そしてアフリカから短編小説が20篇収録…

七河迦南『アルバトロスは羽ばたかない』

七河迦南 『アルバトロスは羽ばたかない』 創元推理文庫 七河迦南の『アルバトロスは羽ばたかない』を読了しました。前作の『七つの海を照らす星』を読んだのはもう何年前のことだったか、詳細な内容も含めて思い出せないのですが、その続編である本書は国内…

バーナード・マラマッド『アシスタント』

バーナード・マラマッド 酒本雅之訳 『アシスタント』 荒地出版社 バーナード・マラマッド(1914-1986)の『アシスタント』を読了しました。寡作で知られているマラマッドですが、本書は彼が1957年に発表した小説第二作目です。私の手元にある本書は1969年に…

ヒューム『自然宗教をめぐる対話』

ヒューム 犬塚元訳 『自然宗教をめぐる対話』 岩波文庫 ヒューム(1711-1776)の『自然宗教をめぐる対話』を読了しました。ヒュームにしては珍しく対話篇の形式によって書かれた著作で、そのテーマの繊細さゆえにヒュームの死後になってから出版された作品で…

滝口悠生『愛と人生』

滝口悠生 『愛と人生』 講談社文庫 滝口悠生の『愛と人生』を読了しました。表題作の「愛と人生」は、映画「男はつらいよ」を題材としてそのシリーズ中のひとりの人物を語り手として、誰もが知る大衆映画の実相を不思議な遠近法で眺める小説作品です。フルネ…

マーガレット・アトウッド『侍女の物語』

マーガレット・アトウッド 斎藤英治訳 『侍女の物語』 ハヤカワ文庫 マーガレット・アトウッド(1939-)の『侍女の物語』を読了しました。カナダの作家アトウッドは近年(たいていは前評判どおりにはいかな)ノーベル文学賞候補者として名前の挙げられる一人…

ウラジミール・ナボコフ『賜物 父の蝶』

ウラジミール・ナボコフ 沼野充義・小西昌隆訳 『賜物 父の蝶』 新潮社 ウラジミール・ナボコフ(1899-1977)の『賜物 父の蝶』を読了しました。ナボコフがロシア語で書いた最後の長編作品である本書は、彼の代表作のひとつとも言われています。新潮社から刊…

J・R・サール『言語行為』

J・R・サール 坂本百大・土屋俊訳 『言語行為』 勁草書房 J・R・サール(1932-)の『言語行為』を読了しました。現代アメリカを代表する哲学者の一人で長くカリフォルニア大学バークレー校で教鞭をとっていたサールですが、近年になって残念なかたちで大学を…

ヴァージニア・ウルフ『オーランドー』

ヴァージニア・ウルフ 川本静子訳 『オーランドー』 みすず書房 ヴァージニア・ウルフ(1882-1941)の『オーランドー』を読了しました。性別や時間軸を超えた「伝記」として、ウルフの著作群のなかでも特異な存在感をはなっているのが本書です。ウルフが一時…

ミシェル・ウエルベック『地図と領土』

ミシェル・ウエルベック 野崎歓訳 『地図と領土』 ちくま文庫 ミシェル・ウエルベック(1958-)の『地図と領土』を読了しました。2010年に発表された本書のテーマを2つのキーワードで表すとすると「アートと資本主義」ということになると思うのですが、本書…

ライプニッツ『モナドロジー 他二篇』

ライプニッツ 谷川多佳子・岡部英男訳 『モナドロジー 他二篇』 岩波文庫 ライプニッツ(1646-1716)の『モナドロジー 他二篇』を読了しました。本書には、ライプニッツが単純な実体として定義する「モナド」についての形而上学を展開した論文に加えて、「理…

J・G・フレーザー『金枝篇』

J・G・フレーザー 吉岡晶子訳 『図説 金枝篇』 講談社学術文庫 J・G・フレーザー(1854-1941)の『金枝篇』を読了しました。イギリスの社会人類学者であるフレーザーが著した書物の図説入り編集版です。監修はメアリー・ダグラス、編集はサビーネ・マコーマ…

レオナルド・パドゥーラ『犬を愛した男』

レオナルド・パドゥーラ 寺尾隆吉訳 『犬を愛した男』 水声社 レオナルド・パドゥーラ(1955-)の『犬を愛した男』を読了しました。キューバの作家であるパドゥーラは、マリオ・コンデ警部補シリーズとして知られるミステリー小説で人気を博する作家とのこと…

トマス・ピンチョン『重力の虹』

トマス・ピンチョン 佐藤良明訳 『重力の虹』 新潮社 トマス・ピンチョン(1937-)の『重力の虹』をようやく読了しました。1973年に発表されたピンチョンの代表作とされる本書は、全米図書賞を受賞するものの、ピュリッツァー賞は「読みにくく卑猥である」と…

ヒラリー・パトナム『存在論抜きの倫理』

ヒラリー・パトナム 関口浩喜他訳 『存在論抜きの倫理』 法政大学出版局 ヒラリー・パトナム(1926-2016)の『存在論抜きの倫理』を読了しました。2002年に発表された本書は、イタリアのペルージャ大学で行われた連続講義と、オランダはアムステルダムで行わ…

ヒラリー・パトナム『理性・真理・歴史 内在的実在論の展開』

ヒラリー・パトナム 野本和幸他訳 『理性・真理・歴史 内在的実在論の展開』 法政大学出版局 ヒラリー・パトナム(1926-2016)の『理性・真理・歴史 内在的実在論の展開』を読了しました。パトナムは20世紀後半のアメリカにおいて大きな影響力を持った哲学者…

古川日出男『サウンドトラック』

古川日出男 『サウンドトラック』 集英社文庫 古川日出男の『サウンドトラック』を読了しました。本書が発表されたのは2003年のことで、これは直木賞候補となった『ベルカ、吠えないのか?』の2年前、三島由紀夫賞を受賞した『LOVE』の3年前に当たる年であり…

青木薫『宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論』

青木薫 『宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論』 講談社現代新書 青木薫の『宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論』を読了しました。自身も大学では理論物理学を専攻し、数学や物理学の書籍の翻訳家として知られる青木氏が、「人間…

ウラジミール・ナボコフ『ナボコフの文学講義』

ウラジミール・ナボコフ 野島秀勝訳 『ナボコフの文学講義』 河出文庫 ウラジミール・ナボコフ(1899-1977)の『ナボコフの文学講義』を読了しました。ナボコフがアメリカに亡命した後の大学での講義録をもとにした評論集です。取り上げられている作家と作品…

アントニイ・バージェス『時計じかけのオレンジ』

アントニイ・バージェス 乾信一郎訳 『時計じかけのオレンジ』 ハヤカワ文庫 アントニイ・バージェス(1917-1993)の『時計じかけのオレンジ』を読了しました。本作はイギリスの作家・評論家であるバージェスの作品としてよりも、スタンリー・キキューブリッ…

イアン・ハッキング『確率の出現』

イアン・ハッキング 広田すみれ・森元良太訳 『確率の出現』 慶應義塾大学出版会 イアン・ハッキング(1936-)の『確率の出現』を読了しました。現代アメリカを代表する科学哲学者のひとりであるハッキングが1975年に発表して、現在まで続く確率論隆盛の嚆矢…

ジャネット・ウィンターソン『オレンジだけが果物じゃない』

ジャネット・ウィンターソン 岸本佐知子訳 『オレンジだけが果物じゃない』 白水Uブックス ジャネット・ウィンターソン(1959-)の『オレンジだけが果物じゃない』を読了しました。イギリスはマンチェスター生まれの作家であるウィンターソンが、24歳のとき…

フィリップ・K・ディック『宇宙の眼』

フィリップ・K・ディック 中田耕治訳 『宇宙の眼』 ハヤカワ文庫 フィリップ・K・ディック(1928-1982)の『宇宙の眼』を読了しました。1957年に発表されたディックの出世作と称される作品で、原題は“Eye in the Sky”です。いわゆる並行世界をテーマにしたSF…

G・ガルシア=マルケス『予告された殺人の記録 十二の遍歴の物語』

G・ガルシア=マルケス 野谷文昭・旦敬介訳 『予告された殺人の記録 十二の遍歴の物語』 新潮社 G・ガルシア=マルケス(1927-2014)の『予告された殺人の記録 十二の遍歴の物語』を読了しました。新潮社のガルシア=マルケス全小説シリーズの一冊で、中編作品…

羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』

羽田圭介 『スクラップ・アンド・ビルド』 文春文庫 羽田圭介の『スクラップ・アンド・ビルド』を読了しました。第153回芥川賞受賞作です。黒々とした荒涼とした風景の中から特異なユーモアを表出させるという作風ですが、読んでいて少し疲れてしまう部分も…

吉田修一『パーク・ライフ』

吉田修一 『パーク・ライフ』 文春文庫 吉田修一の『パーク・ライフ』を読了しました。第127回芥川賞受賞作である本書ですが、ハードカバーの単行本として刊行された当時に、手にとって読んだ記憶があります。今回、何となく思い立って文庫本で読み直してみ…

レイモンド・チャンドラー『さようなら、愛しい人』

レイモンド・チャンドラー 村上春樹訳 『さようなら、愛しい人』 ハヤカワ文庫 レイモンド・チャンドラー(1888-1959)の『さようなら、愛しい人』を読了しました。私立探偵フィリップ・マーロウを主人公とするハードボイルド小説の古典ですが、読むのはたぶ…

村上龍『半島を出よ』

村上龍 『半島を出よ』 幻冬舎文庫 村上龍の『半島を出よ』を読了しました。2005年に刊行された本書は、15年の歳月を経て読んでみると、あらためてその(一部の)リアリティに驚かされてしまうのですが、著者の別作品からのスピンオフと思しき登場人物たちが…