文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

2020-10-01から1ヶ月間の記事一覧

J・D・サリンジャー『フラニーとズーイ』

J・D・サリンジャー 村上春樹訳 『フラニーとズーイ』 新潮文庫 J・D・サリンジャー(1919-2010)の『フラニーとズーイ』を読了しました。著者の意向により「まえがき」や「あとがき」を付すことができない本書には、「投げ込み特別エッセイ」という形で村上…

アーダベルト・シュティフター『森ゆく人』

アーダベルト・シュティフター 松村國隆訳 『森ゆく人』 松籟社 アーダベルト・シュティフター(1805-1868)の『森ゆく人』を読了しました。本書は「シュティフター・コレクション」として刊行された叢書の第3巻で、表題作である「森ゆく人」と短い掌編であ…

トマス・ネーゲル『どこでもないところからの眺め』

トマス・ネーゲル 中村昇他訳 『どこでもないところからの眺め』 春秋社 トマス・ネーゲル(1937-)の『どこでもないところからの眺め』を読了しました。論文「コウモリであるとはどのようなことか」がつとに有名なアメリカ哲学界の重鎮のひとりですが、本書…

コルタサル『秘密の武器』

コルタサル 木村榮一訳 『秘密の武器』 岩波文庫 フリオ・コルタサル(1914-1984)の『秘密の武器』を読了しました。本書は1959年に発表された短編集です。「母の手紙」、「女中勤め」、「悪魔の涎」、「追い求める男」、「秘密の武器」の5篇が収録されてい…

ペーター・ハントケ『不安 ペナルティキックを受けるゴールキーパーの…』

ペーター・ハントケ 羽白幸雄訳 『不安 ペナルティキックを受けるゴールキーパーの…』 三修社 ペーター・ハントケの『不安 ペナルティキックを受けるゴールキーパーの…』を読了しました。2019年のノーベル文学賞受賞者であるペーター・ハントケが1970年に発…

島田荘司『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』

島田荘司 『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』 光文社文庫 島田荘司の『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』を読了しました。初めて読んだのは中学生の頃だったか高校生の頃だったか忘れてしまったのですが、何となく古本屋で手に取って久しぶりの読書となりました。コナン…

ケリー・リンク『マジック・フォー・ビギナーズ』

ケリー・リンク 柴田元幸訳 『マジック・フォー・ビギナーズ』 ハヤカワ文庫 ケリー・リンク(1969-)の『マジック・フォー・ビギナーズ』を読了しました。本書に収録された「妖精のハンドバッグ」はヒューゴー賞やネビュラ賞など、SF・ファンタジー系の賞を…

スティーヴン・ミルハウザー『エドウィン・マルハウス』

スティーヴン・ミルハウザー 岸本佐知子訳 『エドウィン・マルハウス』 河出文庫 スティーヴン・ミルハウザー(1943-)の『エドウィン・マルハウス』を読了しました。本書は1972年に発表された著者のデビュー作品で、フランスのメディシス賞外国語部門を受賞…

モーシン・ハミッド『西への出口』

モーシン・ハミッド 藤井光訳 『西への出口』 新潮社 モーシン・ハミッド(1971-)の『西への出口』を読了しました。パキスタン生まれの作者は、アメリカのロースクールを卒業後、マッキンゼーに勤務しながら小説の執筆を行い200年にデビュー、2007年に発表…

ベン・ラーナー『10:04』

ベン・ラーナー 木原善彦訳 『10:04』 白水社 ベン・ラーナー(1979-)の『10:04』を読了しました。詩人であり作家であるベン・ラーナーの作品は、ポール・オースターやジョナサン・フランゼンといった作家からの評価も高いとのこと。本書の帯には「米の若手…

佐竹謙一『スペイン文学案内』

佐竹謙一 『スペイン文学案内』 岩波文庫 佐竹謙一『スペイン文学案内』を読了しました。岩波文庫別冊として刊行されたスペイン文学へのガイド本です。本書の構成は文学史の大まかな流れを一通り追った後で、遡ってまた年代順に個々の作家や作品を取り上げる…

村田沙耶香『マウス』

村田沙耶香 『マウス』 講談社文庫 村田沙耶香の『マウス』を読了しました。本書は2008年に刊行された彼女にとって二冊目となる単行本です。現実との向き合い方に苦悩する主人公(や周囲の登場人物)が、奇妙な仕方で世界との折り合いを付けていき、その奇妙…

ヘニング・マンケル『タンゴステップ』

ヘニング・マンケル 柳沢由実子訳 『タンゴステップ』 創元推理文庫 ヘニング・マンケル(1948-2015)の『タンゴステップ』を読了しました。スウェーデンの人気作家で、刑事クルト・ヴァランダーを主人公とするシリーズがつとに有名です。本書はノンシリーズ…

アリス・マンロー『善き女の愛』

アリス・マンロー 小竹由美子訳 『善き女の愛』 新潮社 アリス・マンロー(1931-)の『善き女の愛』を読了しました。“The Love of a Good Woman”が原題で1998年に出版された短編集です。本書には8編の短編が収録されていますが、いずれも一筋縄ではいかない…

スティーヴン・キング『ダークタワーⅠ ガンスリンガー』

スティーヴン・キング 風間賢二訳 『ダークタワーⅠ ガンスリンガー』 角川文庫 スティーヴン・キング(1947-)の『ダークタワーⅠ ガンスリンガー』を読了しました。キングのライフワークとも言われているダークファンタジー『ダークタワー』の一冊です。トー…

イーユン・リー『千年の祈り』

イーユン・リー 篠森ゆりこ訳 『千年の祈り』 新潮社 イーユン・リー(1972-)の『千年の祈り』を読了しました。中国の北京で生まれた著者は1996年に渡米した後、英語で小説を書くことを選んだそうです。2005年に刊行されたデビュー短編集である本書は「第1…

魯迅『阿Q正伝・狂人日記 他十二篇』

魯迅 竹内好訳 『阿Q正伝・狂人日記 他十二篇』 岩波文庫 魯迅(1881-1936)の『阿Q正伝・狂人日記 他十二篇』を読了しました。子どもの頃に教科書だか何だかで読んだ記憶はあるのですが、それ以来の読書となります。きちんと全編を読むという意味では初めて…

ジョルジュ・ペレック『煙滅』

ジョルジュ・ペレック 塩塚秀一郎訳 『煙滅』 水声社 ペレックの『煙滅』を読了。ペレックがこの本でたくらんだことを前もって把握せぬまま、この本を読む者はわずかだろうと考えるとすると、過度なネタバレへの恐れは無用なことなのですが、それでも本稿で…

レベッカ・ブラウン『若かった日々』

レベッカ・ブラウン 柴田元幸訳 『若かった日々』 新潮文庫 レベッカ・ブラウン(1956-)の『若かった日々』を読了しました。原題は“The End of Youth”となっています。「自伝的短編集」であると喧伝されていますが、家族や周囲との関わりのなかで過ごす若か…

カルミネ・アバーテ『偉大なる時のモザイク』

カルミネ・アバーテ 栗原俊秀訳 『偉大なる時のモザイク』 未知谷 カルミネ・アバーテ(1954-)の『偉大なる時のモザイク』を読了しました。本書は『帰郷の祭り』に続いて2006年に発表された作品のようです。作者自身の生まれ故郷を思わせるイタリア南部のカ…

ジョン・ニコルズ『卵を産めない郭公』

ジョン・ニコルズ 村上春樹訳 『卵を産めない郭公』 新潮文庫 ジョン・ニコルズ(1940-)の『卵を産めない郭公』を読了しました。以前にハヤカワ文庫から『くちづけ』というタイトルで翻訳された作品で、このたびは村上柴田翻訳堂の一冊として村上氏による翻…

ドン・デリーロ『天使エスメラルダ 9つの物語』

ドン・デリーロ 柴田元幸・上岡伸雄・都甲幸治・高吉一郎訳 『天使エスメラルダ 9つの物語』 新潮社 ドン・デリーロ(1936-)の『天使エスメラルダ 9つの物語』を読了しました。本書には表題のとおりに9つの短編作品が発表年代順に収録されています。古いも…

マリオ・バルガス=リョサ『アンデスのリトゥーマ』

マリオ・バルガス=リョサ 木村榮一訳 『アンデスのリトゥーマ』 岩波書店 マリオ・バルガス=リョサ(1936-)の『アンデスのリトゥーマ』を読了しました。本書が発表されたのは1993年で、邦訳が刊行されたのは2010年のノーベル文学賞受賞後のタイミングとなる…

ロベルト・ボラーニョ『通話』

ロベルト・ボラーニョ 松本健二訳 『通話』 白水社 ロベルト・ボラーニョ(1953-2003)の『通話』を読了しましたいわゆる「ブーム」を形作ったラテンアメリカ文学の系譜とは少し世代を画する、若きチリの作家・ボラーニョですが、50歳の若さで亡くなった後は…

シュテファン・ツヴァイク『マリー・アントワネット』

シュテファン・ツヴァイク 中野京子訳 『マリー・アントワネット』 角川文庫 シュテファン・ツヴァイク(1881-1942)の『マリー・アントワネット』を読了しました。不確かな記憶なのですが、子どもの頃に読んだ赤川次郎さんのエッセイで「シュテファン・ツヴ…

オルハン・パムク『雪』

オルハン・パムク 宮下遼訳 『雪』 ハヤカワ文庫 オルハン・パムク(1952-)の『雪』を読了しました。トルコのノーベル文学賞受賞者オルハン・パムクの現代小説です。以前に読んだ『わたしの名は赤』がオスマン=トルコ帝国時代を舞台にした歴史小説であった…