文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

2018-01-01から1年間の記事一覧

ケン・リュウ『もののあはれ』

ケン・リュウ 古沢嘉通訳 『もののあはれ』 ハヤカワ文庫 ケン・リュウ(1976-)の『もののあはれ』を読了しました。先日読了した『紙の動物園』と同じく、ケン・リュウの第一短編集からの日本編集版です。前作がファンタジー作品の集成で、それに対して本作…

野家啓一『科学哲学への招待』

野家啓一 『科学哲学への招待』 ちくま学芸文庫 野家啓一の『科学哲学への招待』を読了しました。科学哲学の入門書は世の中にたくさんあると思いますが、いわゆる「科学哲学」だけではなく「科学史」や「科学社会学」までバランスよく目配りしているのが本書…

ミランダ・ジュライ『いちばんここに似合う人』

ミランダ・ジュライ 岸本佐知子訳 『いちばんここに似合う人』 新潮社 ミランダ・ジュライ(1974-)の『いちばんここに似合う人』を読了しました。ミランダ・ジュライはパフォーマンスアーティストであり、映画製作者であり女優であり、そして作家でもあると…

ホメロス『オデュッセイア』

ホメロス 松平千秋訳 『オデュッセイア』 岩波文庫 ホメロスの『オデュッセイア』を読了しました。言わずとしれたギリシア最古の英雄叙事詩。『イリアス』で描かれたトロイア戦争が終結した後、故郷へと戻るオデュッセウスの苦難の道のりと、祖国に巣食う悪…

木原善彦『実験する小説たち 物語るとは別の仕方で』

木原善彦 『実験する小説たち 物語るとは別の仕方で』 彩流社 木原善彦『実験する小説たち 物語るとは別の仕方で』を読了しました。本書はブックガイドなので「読了」という表現は似合わないのかもしれませんが。昔からブックガイドというものが好きで、それ…

J. アナス・J. バーンズ『古代懐疑主義入門 判断保留の十の方式』

J. アナス・J. バーンズ 金山弥平訳 『古代懐疑主義入門 判断保留の十の方式』 岩波文庫 J. アナス・J. バーンズの『古代懐疑主義入門 判断保留の十の方式』を読了しました。原著は1985年に出版されています。アリストテレスに続く古代西洋哲学の時代である…

平野啓一郎『ある男』

平野啓一郎 『ある男』 文芸春秋 平野啓一郎(1975-)の『ある男』を読了しました。海外文学ばかりを読んでいたので日本の作家が書いた小説を読むのは約1年ぶりくらいかもしれません。これからはもう少しバランスよく読んでいきたいと思うのですが。前作『マ…

アンドレ・ジイド『狭き門』

アンドレ・ジイド 川口篤訳 『狭き門』 岩波文庫 アンドレ・ジイド(1869-1951)の『狭き門』を読了しました(「ジッド」という表記の方に馴染みがあるのですが、ここでは本書の表記に従って「ジイド」としています)。高校時代だったか大学時代だったかは忘…

ケン・リュウ『紙の動物園』

ケン・リュウ 古沢嘉通編・訳 『紙の動物園』 ハヤカワ文庫 ケン・リュウ(1976-)の『紙の動物園』を読了しました。中国出身でアメリカに移住し、弁護士やプログラマーとしても活動しながら2002年に作家デビュー。2011年に発表した本書の表題作である「紙の…

シャーウッド・アンダーソン『ワインズバーグ、オハイオ』

シャーウッド・アンダーソン 上岡伸雄訳 『ワインズバーグ、オハイオ』 新潮文庫 シャーウッド・アンダーソン(1876-1941)の『ワインズバーグ、オハイオ』を読了しました。本作の紹介文には「トゥエイン的土着文学から脱却、ヘミングウェイらモダニズム文学…

ヘミングウェイ『老人と海』

ヘミングウェイ 福田恆存訳 『老人と海』 新潮文庫 ヘミングウェイ(1899-1961)の『老人と海』を読了しました。読むのは中学時代以来でしょうか、高校時代以来でしょうか、記憶が定かではないのですがかなり久しぶりであることは確かです。今でも何人もの高…

門脇俊介『現代哲学の戦略 反自然主義のもう一つ別の可能性』

門脇俊介 『現代哲学の戦略 反自然主義のもう一つ別の可能性』 岩波書店 門脇俊介(1954-)の『現代哲学の戦略 反自然主義のもう一つ別の可能性』を読了しました。最近は哲学の本を購入することもほとんどなかったのですが、古本市で目にして衝動的に手に取…

イアン・マキューアン『初夜』

イアン・マキューアン 村松潔訳 『初夜』 新潮社 イアン・マキューアン(1948-)の『初夜』を読了しました。中編小説というべき長さの作品で、原題は“On Chesil Beach”です。イギリス南部のドーセットに実在する浜辺のようですが、どのような含意があるのか…

サン=テグジュペリ『夜間飛行』

サン=テグジュペリ 堀口大學訳 『夜間飛行』 新潮文庫 サン=テグジュペリ(1900-1944)の『夜間飛行』を読了しました。高校時代に読んで以来の再読です。本書には『夜間飛行』に加えてサン=テグジュペリの処女作でもある『南方郵便機』が収録されています。…

ミシェル・ウエルベック『素粒子』

ミシェル・ウエルベック 野崎歓訳 『素粒子』 ちくま文庫 ミシェル・ウエルベック(1958-)の『素粒子』を読了しました。ミシェル・ウエルベックはインド洋マダガスカル島の東に位置するフランス領の孤島レユニオンの出身ですが、両親の育児放棄により、6歳…

ジュンパ・ラヒリ『その名にちなんで』

ジュンパ・ラヒリ 小川高義訳 『その名にちなんで』 新潮社 ジュンパ・ラヒリ(1967-)の『その名にちなんで』を読了しました。『停電の夜に』(原題は『病気の通訳』)でデビューしたジュンパ・ラヒリの長編第一作にあたるのが本書です。 本書の主人公はア…

バルガス=リョサ『緑の家』

バルガス=リョサ 木村榮一訳 『緑の家』 岩波文庫 バルガス=リョサ(1936-)の『緑の家』を読了しました。バルガス=リョサの作品を読むのは彼の長編第一作である『都会と犬ども』に続いて二冊目のことでした。せっかくならばバルガス=リョサの作品は可能な限…

シャーリイ・ジャクスン『くじ』

シャーリイ・ジャクスン 深町眞理子訳 『くじ』 ハヤカワ文庫 シャーリイ・ジャクスン(1916-1965)の『くじ』を読了しました。今年読んだ『ニューヨーカー』掲載作品のアンソロジーで気になった作家のひとりである、シャーリイ・ジャクスンの代表的な短編作…

ポール・オースター『インヴィジブル』

ポール・オースター 柴田元幸訳 『インヴィジブル』 新潮社 ポール・オースター(1947-)の『インヴィジブル』を読了しました。ポール・オースターの生年をあらためて確認してびっくり、もう70歳を超えているのですね…。彼の作品はそのほとんどを読んでいる…

ピーター・キャメロン『最終目的地』

ピーター・キャメロン 岩本正恵訳 『最終目的地』 新潮社 ピーター・キャメロン(1959-)の『最終目的地』を読了しました。ピーター・キャメロンはアメリカ・ニュージャージー州生まれの作家で、作家名で検索すると『うるう年の恋人たち』(1992年)、『ママ…

ジョン・アップダイク『イーストウィックの魔女たち』

ジョン・アップダイク 大浦暁生訳 『イーストウィックの魔女たち』 新潮文庫 ジョン・アップダイク(1932-2009)の『イーストウィックの魔女たち』を読了しました。1984年に発表された作品で、日本ではその三年後の1987年には翻訳が出版されています。またそ…

ベルクソン『時間と自由』

ベルクソン 中村文郎訳 『時間と自由』 岩波文庫 ベルクソン(1859-1941)の『時間と自由』を読了しました。1889年に発表されたベルクソンの学位論文で、この岩波文庫での邦訳の題は『時間と自由』なのですが、直訳では『意識に直接与えられたものについての…

ソール・ベロー『この日をつかめ』

ソール・ベロー 大浦暁生訳 『この日をつかめ』 新潮文庫 ソール・ベロー(1915-2005)の『この日をつかめ』を読了しました。ソール・ベローはユダヤ系アメリカ人作家の代表格として語られる作家で、1976年にはノーベル文学賞を受賞しています。しかし最近の…

トマス・ピンチョン『V.』

トマス・ピンチョン 小山太一・佐藤良明訳 『V.』 新潮社 トマス・ピンチョン(1937-)の『V.』を読了しました。ポストモダン文学の申し子というか、むしろ「ピンチョンの文学=ポストモダン文学」という等式すら成立してしまうのですが、1963年に発表された…

『対訳 ポー詩集―アメリカ詩人選(1)』

加島祥造編 『対訳 ポー詩集―アメリカ詩人選(1)』 岩波文庫 エドガー・アラン・ポー(1809-1849)の対訳詩集です。「黒猫」や「アッシャー家の崩壊」などゴシックホラー短編小説や、世界初の推理小説ともいわれる「モルグ街の殺人」で知られるポーですが、…

フィリップ・ロス『素晴らしいアメリカ野球』

フィリップ・ロス 中野好夫・常盤新平訳 『素晴らしいアメリカ野球』 新潮文庫 フィリップ・ロス(1933-2018)の『素晴らしいアメリカ野球』を読了しました。1973年にアメリカで出版され、1976年には日本でも翻訳が出されましたが、長らく重版されなかったも…

『ベストストーリーズⅢ カボチャ頭』

若島正編 『ベストストーリーズⅢ カボチャ頭』 早川書房 雑誌『ニューヨーカー』に掲載された短編小説をはじめとする作品について未訳のものを中心にアンソロジーとしてまとめた『ベストストーリーズ』の第三巻を読了しました。本書に収録された作品が発表さ…

アリス・マンロー『イラクサ』

アリス・マンロー 小竹由美子訳 『イラクサ』 新潮社 アリス・マンロー(1931-)の『イラクサ』を読了しました。アリス・マンローは2013年にノーベル文学賞を受賞したカナダの作家で、短編の名手として知られています。その読後感は“一冊の長編小説を読んだ…

パース『連続性の哲学』

パース 伊藤邦武編訳 『連続性の哲学』 岩波文庫 チャールズ・サンダース・パース(1839-1914)の『連続性の哲学』を読了しました。このブログは基本的に外国文学の読書記録なのですが、読んだ本の記録は付けておくという方針のもとで哲学関連の本についても…

トーマス・マン『ブッデンブローク家の人びと』

トーマス・マン 望月市恵訳 『ブッデンブローク家の人びと』 岩波文庫 トーマス・マン(1875-1955)の『ブッデンブローク家の人びと』を読了しました。本書はノーベル賞作家でもある文豪トーマス・マンの処女長編作品で1901年に完成しました。私は大学時代に…