文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

2024-01-01から1ヶ月間の記事一覧

マリオ・バルガス=ジョサ『嘘から出たまこと』

マリオ・バルガス=ジョサ 寺尾隆吉訳 『嘘から出たまこと』 現代企画室 マリオ・バルガス=ジョサ(1936-)の『嘘から出たまこと』を読了しました。後にノーベル賞を受賞することになる作家の手になる書評集・評論集です。作者がその影響を公言するアンドレ…

フーケー『水妖記(ウンディーネ)』

フーケー 柴田治三郎訳 『水妖記(ウンディーネ)』 岩波文庫 フーケー(1777-1843)の『水妖気(ウンディーネ)』を読了しました。プロイセン王国でフランス人の父とドイツ人の母との間に生まれたフーケーは、軍人を辞めた後に作家となり、現代であればファ…

平野啓一郎『本心』

平野啓一郎 『本心』 文藝春秋 平野啓一郎の『本心』を読了しました。四半世紀後の日本という近未来を舞台に、現実の社会に確かな眼差しを据えたまま、まっすぐな思索の道筋を小説というかたちで綴ってみせた作品です。物語に登場する老作家を評して言われる…

吉村達也『セカンド・ワイフ』

吉村達也 『セカンド・ワイフ』 集英社文庫 吉村達也の『セカンド・ワイフ』を読了しました。主に集英社から刊行されている、作者が「心理サスペンス」と名付けている作品群のうちの一冊で、お互いの理想や打算のもとで成立する結婚を巡る不協和のうちに潜む…

ディケンズ『クリスマス・キャロル』

ディケンズ 池央耿 『クリスマス・キャロル』 光文社古典新訳文庫 ディケンズ(1812-1870)の『クリスマス・キャロル』を読了しました。随分と昔に読んだのは新潮文庫の翻訳で、古めかしい装丁が懐かしく思い出されるのですが、21世紀になってからの新訳で、…

高里椎奈『銀の檻を溶かして』

高里椎奈 『銀の檻を溶かして』 講談社文庫 高里椎奈の『銀の檻を溶かして』を読了しました。第11回メフィスト賞受賞作ということで手に取った作品なのですが、ヤングアダルトの装いのもとで、想像よりもミステリーとたろうとする意思の感じられる小説でした…

吉村達也『ナイトメア』

吉村達也 『ナイトメア』 角川ホラー文庫 吉村達也の『ナイトメア』を読了しました。韓国映画のノベライズ(作者の意図としては書き下ろし)ですが、作者の良さというものが発揮されているとは思われず、やや中途半端になってしまっているという印象です。 …

西浦博・川端裕人『理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!』

西浦博・川端裕人 『理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!』 中央公論新社 西浦博・川端裕人の『理論疫学者・西浦博の挑戦 新型コロナからいのちを守れ!』を読了しました。新型コロナウイルスの蔓延に対応するための厚生労働省クラスター…

ジャック・リッチー『クライム・マシン』

ジャック・リッチー 好野理恵訳 『クライム・マシン』 河出文庫 ジャック・リッチー(1922-1983)の『クライム・マシン』を読了しました。短篇ミステリの名手という呼び名に違わない優れた短篇ミステリーが多数収録された作品集です。巻頭に掲げられた表題作…

ジェイン・オーステイン『高慢と偏見』

ジェイン・オーステイン 中野康司訳 『高慢と偏見』 ちくま文庫 ジェイン・オーステイン(1775-1817)の『高慢と偏見』を読了しました。以前に岩波文庫の翻訳で読んだのは学生時代のことなので、今回はかなり久し振りの読み直しととなりました。本書は近代イ…

赤川次郎『うぐいす色の旅行鞄』

赤川次郎 『うぐいす色の旅行鞄』 光文社文庫 赤川次郎の『うぐいす色の旅行鞄』を読了しました。タイトルにも掲げられたアイテムを巡る思わせ振りな導入は、肩透かし以外の何ものでもありませんが、本シリーズ作品のいつもの水準どおりといったところでしょ…

清涼院流水『パーフェクト・ワールド What a perfect world! Book.12』

清涼院流水 『パーフェクト・ワールド What a perfect world! Book.12』 講談社 清涼院流水の『パーフェクト・ワールド What a perfect world! Book.12』を読了しました。僕と世界の物語と英語と京都を巡る不思議な小説(大説?)も、本巻でついにフィナーレ…

清涼院流水『パーフェクト・ワールド What a perfect world! Book.11』

清涼院流水 『パーフェクト・ワールド What a perfect world! Book.11』 講談社 清涼院流水の『パーフェクト・ワールド What a perfect world! Book.11』を読了しました。奇妙な数当てゲームの中に、パズラーたろうとする矜持のようなものが垣間見える気がし…

清涼院流水『パーフェクト・ワールド What a perfect world! Book.10』

清涼院流水 『パーフェクト・ワールド What a perfect world! Book.10』 講談社 清涼院流水の『パーフェクト・ワールド What a perfect world! Book.10』を読了しました。フィナーレへ向けての助走といった物語が展開されますが、この先には予定調和が待ち受…

清涼院流水『パーフェクト・ワールド What a perfect world! Book.9』

清涼院流水 『パーフェクト・ワールド What a perfect world! Book.9』 講談社 清涼院流水の『パーフェクト・ワールド What a perfect world! Book.9』を読了しました。本巻については、もはや英単語の羅列に過ぎないのではないかという気もするのですが、最…

ウラジーミル・ナボコフ『ナボコフ全短篇』

ウラジーミル・ナボコフ 秋草俊一郎・諫早勇一・貝澤哉・加藤光也・杉本一直・沼野充義・毛利公美・若島正 訳 『ナボコフ全短篇』 作品社 ウラジーミル・ナボコフ(1899-1977)の『ナボコフ全短篇』を読了しました。生前に発表された作品、また死後に公刊さ…

赤川次郎『三毛猫ホームズと愛の花束』

赤川次郎 『三毛猫ホームズと愛の花束』 角川文庫 赤川次郎の『三毛猫ホームズと愛の花束』を読了しました。四編の作品が収録されたシリーズ短編集です。安定の展開と安定のクオリティというか、それ以上に語るべきものがない作品でもあります。 【満足度】★…

吉村達也『「横濱の風」殺人事件』

吉村達也 『「横濱の風」殺人事件』 徳間文庫 吉村達也の『「横濱の風」殺人事件』を読了しました。中学生の少年が主人公である朝比奈耕作と対峙するという物語の展開は非常に新鮮で面白く読むことができました。本格ミステリーとしての面白さは正直なところ…

関田涙『蜜の森の凍える女神』

関田涙 『蜜の森の凍える女神』 講談社ノベルス 関田涙の『蜜の森の凍える女神』を読了しました。講談社のメフィスト賞を受賞したミステリー小説で、新本格ミステリーの作法に則った秀作です。そのトレース具合に対して好感を持つ部分もあり、一方で少し鼻白…

島田荘司『消える「水晶特急」』

島田荘司 『消える「水晶特急」』 光文社文庫 島田荘司の『消える「水晶特急」』を読了しました。作者らしい大胆なトリックを駆使したミステリー作品で、読者を楽しませるだけの一定の水準に仕上げる力はさすがだなと思わされます。 【満足度】★★★☆☆

吉村達也『空中庭園殺人事件』

吉村達也 『空中庭園殺人事件』 光文社文庫 吉村達也の『空中庭園殺人事件』を読了しました。プロットにマンネリ化を防ぐための作者の工夫が見られます。ミステリーとして面白いかといわれると、純粋に首肯できないものがあるのですが。 【満足度】★★☆☆☆

吉村達也『「巨人―阪神」殺人事件』

吉村達也 『「巨人―阪神」殺人事件』 光文社文庫 吉村達也の『「巨人―阪神」殺人事件』を読了しました。ミステリーとして完成度の高い作者の作品を読むのは何だか久し振りのような気がするのですが、タイトルにも込められている本書のメタ的な設定がミステリ…

清涼院流水『パーフェクト・ワールド What a perfect world! Book.8』

清涼院流水 『パーフェクト・ワールド What a perfect world! Book.8』 講談社 清涼院流水の『パーフェクト・ワールド What a perfect world! Book.8』を読了しました。とんでもない設定のデスゲームに幼い心がくすぐられてしまうのですが、その馬鹿馬鹿しさ…

清涼院流水『パーフェクト・ワールド What a perfect world! Book.7』

清涼院流水 『パーフェクト・ワールド What a perfect world! Book.7』 講談社 清涼院流水の『パーフェクト・ワールド What a perfect world! Book.7』を読了しました。ちょっと話のノリについていけない部分も出てきているのですが、ある意味でよく計算され…

森博嗣『月は幽咽のデバイス』

森博嗣 『月は幽咽のデバイス』 講談社文庫 森博嗣の『月は幽咽のデバイス』を読了しました。特に語るべき言葉が出てこない作品というか、これはシリーズ全体をひとつの大河小説とみなしたときの、一つの章として読まれるべきものなのかもしれません。 【満…

村上春樹『東京奇譚集』

村上春樹 『東京奇譚集』 新潮文庫 村上春樹の『東京奇譚集』を読了しました。長篇『海辺のカフカ』から『1Q84』に至るまでの期間に発表されたもので、五編の短編作品が収録された作品集です。書き下ろし作品である「品川猿」を除く四編の小説は、本作に収録…

吉村達也『「吉野の花」殺人事件』

吉村達也 『「吉野の花」殺人事件』 徳間文庫 吉村達也の『「吉野の花」殺人事件』を読了しました。かなり大部の小説ですが、この頃の作者の作品群と同様に、本格ミステリーとしてのトリックやプロットよりも、別のところに主眼を置いた作品となっていて、そ…