文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

2023-08-01から1ヶ月間の記事一覧

エマヌエル・ベルクマン『トリック』

エマヌエル・ベルクマン 浅井晶子訳 『トリック』 新潮社 エマヌエル・ベルクマン(1972-)の『トリック』を読了しました。作者によるデビュー作である本書は、最初に英語で書かれた後に自らドイツ語により書き直されて出版されるや否やベストセラーとなり、…

先崎学『うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間』

先崎学 『うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間』 文春文庫 先崎学の『うつ病九段 プロ棋士が将棋を失くした一年間』を読了しました。プロの将棋棋士であり、週刊誌でのエッセイ連載などその文才にも定評のある先崎九段による、自らのうつ病闘病記です…

吉村達也『定価200円の殺人』

吉村達也 『定価200円の殺人』 角川mini文庫 吉村達也の『定価200円の殺人』を読了しました。定価200円で購入できるミニ文庫という企画の設定をそのままタイトルに据えた作者らしい稚気が感じられる作品です。この頃の角川文庫は勢いがあったんだなぁという…

我孫子武丸『人形はこたつで推理する』

我孫子武丸 『人形はこたつで推理する』 講談社文庫 我孫子武丸の『人形はこたつで推理する』を読了しました。腹話術師とその人形を探偵役に据えたユニークなシリーズ作品の第一作目です。あらためて読み返してみると、読者サービスたっぷりというか、作者が…

村上春樹・安西水丸『村上朝日堂はいかにして鍛えられたか』

村上春樹・安西水丸 『村上朝日堂はいかにして鍛えられたか』 新潮文庫 村上春樹・安西水丸の『村上朝日堂はいかにして鍛えられたか』を読了しました。肩の力を抜いたかたちで書かれたエッセイということで(以前にエッセイ集を読み返してみたときにも感じた…

宗田理『ぼくらと七人の盗賊たち』

宗田理 『ぼくらと七人の盗賊たち』 角川文庫 宗田理の『ぼくらと七人の盗賊たち』を読了しました。主人公たちの中学校卒業を引き伸ばしにするかのように、中学校一年生から二年生に上がるときの春休みに実はこんなことがあって…と書かれた作品なのですが、…

アンドレイ・サプコフスキ『ウィッチャー短編集2 運命の剣』

アンドレイ・サプコフスキ 川野靖子訳 『ウィッチャー短編集2 運命の剣』 ハヤカワ文庫 アンドレイ・サプコフスキの『ウィッチャー短編集2 運命の剣』を読了しました。ウィッチャーシリーズの短編集で6つの作品が収録されています。表題作にもなっている…

『疎外と叛逆 ガルシア・マルケスとバルガス・ジョサの対話』

寺尾隆吉訳 『疎外と叛逆 ガルシア・マルケスとバルガス・ジョサの対話』 水声社 『疎外と叛逆 ガルシア・マルケスとバルガス・ジョサの対話』を読了しました。本書は、20世紀のラテンアメリカ文学を代表する作家であるガルシア・マルケスとバルガス=リョサ…

バーナード・マラマッド『テナント』

バーナード・マラマッド 青山南訳 『テナント』 みすず書房 バーナード・マラマッド(1914-1986)の『テナント』を読了しました。それほど数の多くない作者の長篇小説のうち、本書はこれが初邦訳となるようです。とはいえ、その他の長篇小説の翻訳のうち多く…

吉村達也『性格交換』

吉村達也 『性格交換』 ハルキ文庫 吉村達也の『性格交換』を読了しました。作者らしいテイストのホラー感と、ともすれば説教臭くなってしまう作者の人生観と、小説のプロットとしての面白さと、作者の中期以降の作品群にはそれらのバランス感がいささか崩壊…

清涼院流水『パーフェクト・ワールド What a perfect world! Book.1』

清涼院流水 『パーフェクト・ワールド What a perfect world! Book.1』 講談社 清涼院流水の『パーフェクト・ワールド What a perfect world! Book.1』を読了しました。講談社BOXから刊行された「大河ノベル」で、一見すると人を食ったような作品の内容も作…

斜線堂有紀『キネマ探偵カレイドミステリー』

斜線堂有紀 『キネマ探偵カレイドミステリー』 メディアワークス文庫 斜線堂有紀の『キネマ探偵カレイドミステリー』を読了しました。若い世代のミステリー作品を読んで見ようと思って手に取った作品です。映画を題材としたミステリーで、モチーフとされる映…

ヒラリー・マンテル『ウルフ・ホール』

ヒラリー・マンテル 宇佐川晶子訳 『ウルフ・ホール』 早川書房 ヒラリー・マンテル(1952-)の『ウルフ・ホール』を読了しました。ブッカー賞受賞作品である本書は、イギリスの政治家でありヘンリー8世に仕えたトマス・クロムウェルを主人公とする歴史小説…

ペーター・ハントケ『反復』

ペーター・ハントケ 阿部卓也訳 『反復』 同学社 ペーター・ハントケ(1942-)の『反復』を読了しました。本書が発表されたのは1986年のことで、若くして気鋭の劇作家としてデビューを飾ったハントケが丸みを帯びていくように円熟していく過程において書かれ…

瀬名秀明『パラサイト・イヴ』

瀬名秀明 『パラサイト・イヴ』 角川ホラー文庫 瀬名秀明の『パラサイト・イヴ』を読了しました。第2回日本ホラー小説大賞の受賞作である本書は、現役の研究知識をその土台として展開した物語の手際が高い評価に繋がったのだと思うのですが、本書が怖いホラ…

赤川次郎『小豆色のテーブル』

赤川次郎 『小豆色のテーブル』 光文社文庫 赤川次郎の『小豆色のテーブル』を読了しました。新章に突入したシリーズ作品の続きが気になって、続けて読む次第となりました。ここからの作品は以前に一度読んだどうか記憶が定かではないのですが、これからの展…

赤川次郎『暗黒のスタートライン』

赤川次郎 『暗黒のスタートライン』 光文社文庫 赤川次郎の『暗黒のスタートライン』を読了しました。シリーズ作品のひとつの分岐点をなす作品なのですが、おそらくというよりも間違いなく、シリーズ数作品前の時点から作者はこの地点に向けての助走を始めて…

宗田理『ぼくらの○秘学園祭』

宗田理 『ぼくらの○秘学園祭』 角川文庫 宗田理の『ぼくらの○秘学園祭』を読了しました。何とも不思議なプロットの作品で、どのような経緯でこの作品が生まれるに至ったのかについて興味が湧いてきます。子どもや老人たちのイノセンスとパワーという作者お得…

二階堂黎人『聖アウスラ修道院の惨劇』

二階堂黎人 『聖アウスラ修道院の惨劇』 講談社文庫 二階堂黎人の『聖アウスラ修道院の惨劇』を読了しました。本シリーズについては、あまりまともに読んでしまうと肩透かしをくらってしまうので、シュールなコメディだと思って読むのがちょうど良いのではな…

吉村達也『出雲信仰殺人事件』

吉村達也 『出雲信仰殺人事件』 角川文庫 吉村達也の『出雲信仰殺人事件』を読了しました。ところどころに面白い発想を交えながらも、それを一つの作品としてうまく昇華しきらないままに書き上げた作品という印象です。シリーズ作品のキャラクター性など、プ…

赤川次郎『沈める鐘の殺人』

赤川次郎 『沈める鐘の殺人』 講談社文庫 赤川次郎の『沈める鐘の殺人』を読了しました。作者の作品はどれほどライトに書かれたものであっても、どこかに光る部分を見つけることができる作品がほとんどなのですが、本書についてはほとんど見るべき部分がなか…

島田荘司『Yの構図』

島田荘司 『Yの構図』 光文社文庫 島田荘司の『Yの構図』を読了しました。本書をあらためて読み返してみて感じたのはその異色ぶりというか、本書の結末は作者の作品群の中にあってかなり特異なものになっていると思います。作者が本書の主題を扱う手並みは…

ピエール・ルメートル『監禁面接』

ピエール・ルメートル 橘明美訳 『監禁面接』 文春文庫 ピエール・ルメートルの『監禁面接』を読了しました。グロテスクな悪意をグロテスクな悪意のままに描くこと、そしてその悪意に亀裂を入れるためには多くの犠牲を伴わなければならないことを作者は知悉…

マイクル・コナリー『警告』

マイクル・コナリー 古沢嘉通訳 『警告』 講談社文庫 マイクル・コナリーの『警告』を読了しました。作者のシリーズ作品の中では地味な部類に入ると思うのですが、ジャーナリストであるジャック・マカヴォイを主人公とする作品です。ジャーナリストという自…

『対訳 ジョン・ダン詩集―イギリス詩人選(2)』

湯浅信之訳 『対訳 ジョン・ダン詩集―イギリス詩人選(2)』 岩波文庫 『対訳 ジョン・ダン詩集―イギリス詩人選(2)』を読了しました。本書を読むまで、ジョン・ダン(1572-1631)という詩人のことはまったく知らなかったのですが、後世において形而上詩人…

吉村達也『邪宗門の惨劇』

吉村達也 『邪宗門の惨劇』 角川文庫 吉村達也の『邪宗門の惨劇』を読了しました。あらためて読み返してみて感じたのは、とても作者らしい作品だなという感想でした。他にも優れたミステリーをたくさん書いている作者ですが、本書には私が感じる作者のミステ…

有栖川有栖『火村英生に捧げる犯罪』

有栖川有栖 『火村英生に捧げる犯罪』 文春文庫 有栖川有栖の『火村英生に捧げる犯罪』を読了しました。ハードカバーで刊行されたときに一度読んでいるとは思うのですが、まったく思い出すことができず、今回の再読でも甦る記憶はごくわずかなものでした。そ…

赤川次郎『三毛猫ホームズの幽霊クラブ』

赤川次郎 『三毛猫ホームズの幽霊クラブ』 角川文庫 赤川次郎の『三毛猫ホームズの幽霊クラブ』を読了しました。シリーズのヨーロッパ篇の第二作目にあたる作品なのですが、いささか登場人物が多すぎて混乱してしまいます。凝ったプロットではあると思うので…

北村薫『覆面作家は二人いる』

北村薫 『覆面作家は二人いる』 角川文庫 北村薫の『覆面作家は二人いる』を読了しました。「日常の謎」と呼ぶにはいささか罪状の重い犯罪が描かれるのですが、そのファンタジックな筆致も相まって、何となく軽く読み進めることができます。その中にいくつか…

宗田理『ぼくんちの戦争ごっこ』

宗田理 『ぼくんちの戦争ごっこ』 角川文庫 宗田理の『ぼくんちの戦争ごっこ』を読了しました。作者が描く「ぼくらシリーズ」の番外編といった趣の作品で、シリーズ作品の主人公たちからは2年後輩にあたる中学一年生の男子生徒が本書の主人公となっています…