文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

カズオ・イシグロ『クララとお日さま』

カズオ・イシグロ 土屋政雄

『クララとお日さま』 早川書房

 

カズオ・イシグロの『クララとお日さま』を読了しました。原題は“Klara and the Sun”です。ノーベル文学賞受賞第一作と謳われる本書のテーマは「AI」で、同じく現代イギリスを代表する作家のひとりであるイアン・マキューアンの近作『恋するアダム』と読み比べてみると、それぞれの作家の個性を感じることができるかもしれません。

 

本書の主人公は人工知能を搭載したロボットであるクララで、作中では「AF」(“Artificial Friend”の略語だと思いますが)と称されています。ショーウィンドウで来るべき「お友だち」を待つクララは、やがて病弱な少女ジョジーとその母親の家族へと引き取られます。その後の展開についてここで語ることは止めておこうと思いますが、イシグロらしい抑制(というより省略)の効いた筆致と感動的なストーリーラインは健在です。

 

この物語の中でクララが持ち得たものはどれも人間存在にとって本質的と考えられるものばかりであり、逆にクララが決して手にすることができなかったものは、どれも人間の本質には不要なものばかり、という逆説的な事態が浮かび上がってくるようで、なかなかに考えさせられてしまいます。

 

【満足度】★★★★☆

村田沙耶香『殺人出産』

村田沙耶香

『殺人出産』 講談社文庫

 

村田沙耶香の『殺人出産』を読了しました。村田氏は恐ろしくも新しい世界を小説として表現することのできる異能の作家だと思っているのですが、本書についてもその評価は間違いなく当てはまると言っていいでしょう。10人の子どもを出産することで1人殺せる「殺人出産システム」が制度化された社会のなかで、10人の子どもを産んだ姉とその妹が見ることになる風景とは。

 

【満足度】★★★☆☆

フランク・マコート『アンジェラの灰』

フランク・マコート 土屋政雄

『アンジェラの灰』 新潮文庫

 

フランク・マコート(1930-2009)の『アンジェラの灰』を読了しました。アイルランドアメリカ人であるマコートが、アイルランドのリムリックで過ごした少年時代を回想して描いた自伝的小説(「回想録」という言い方がなされていますが)です。ピュリッツァー賞を受賞しています。

 

正直なところ、この作品を楽しむための勘所をうまく掴めないままに終わってしまった消化不良の読書体験でした。

 

【満足度】★★☆☆☆

マイクル・コナリー『レイトショー』

マイクル・コナリー 古沢嘉通

『レイトショー』 講談社文庫

 

 マイクル・コナリーの『レイトショー』を読了しました。マイケル・ボッシュを主人公とする一連のシリーズで知られるコナリーですが、今回の作品はロス市警に勤める女性刑事レネイ・バラードを主人公とする新しいシリーズの第一作とされています。いろいろと時代の移り変わりというか、変化を感じられたというのが率直な感想です。

 

【満足度】★★★☆☆

『対訳 ディキンソン詩集―アメリカ詩人選(3)』

亀井俊介

『対訳 ディキンソン詩集―アメリカ詩人選(3)』 岩波文庫

 

『対訳 ディキンソン詩集―アメリカ詩人選(3)』を読了しました。ポー、ホイットマン、フロストなどの対訳も刊行されている岩波文庫の対訳アメリカ詩人選集ですが、今回読むのはエミリー・ディキンソン(1830-1886)の作品です。生前はほとんど無名であったディキンソンですが、死後に刊行された詩集が人気を博し、現在では19世紀世界文学を代表する詩人の一人として数えられています。

 

短く不思議な情感をたたえた詩が多く「ダッシュ(―)」を多用する詩作も目立ちます。また音楽に乗せて響かせると、そのまま歌になりそうな詩もあって、

 

A word is dead

When it is said,

Some say.

I say it just

Begins to live

That day..

 

この詩などはそのままポップ・ミュージック(あるいはロック?)の歌詞であってもまるでおかしくないように感じられます。

 

【満足度】★★★☆☆

ウィリアム・トレヴァー『ラスト・ストーリーズ』

ウィリアム・トレヴァー 栩木伸明訳

『ラスト・ストーリーズ』 国書刊行会

 

ウィリアム・トレヴァー(1928-2016)の『ラスト・ストーリーズ』を読了しました。アイルランド出身の作家トレヴァーの最後の作品集が本書で、10編の短編作品が収録されています。掬おうとして手の隙間から零れ落ちてしまう水のように、注意深く読まないと受け止めることができない人生の有様を丁寧に描いた作品が並べられています。「ミセス・クラスソープ」も印象に残りましたが、冒頭に配された「ピアノ教師の生徒」で描かれたものは小説でしか描き得ないもののような気がして、この作家の力量を感じさせれます。

 

【満足度】★★★☆☆

大江健三郎『キルプの軍団』

大江健三郎

『キルプの軍団』 岩波文庫

 

大江健三郎の『キルプの軍団』を読了しました。ブレイクやダンテをはじめとして海外の文学作品を読解することをモチーフに、自身の小説の推進力としてきた大江氏ですが、本作ではディケンズの書いた『骨董屋』を読む刑事と甥を物語の中に配し、そしてディケンズ作品に影響を受けたといわれるドストエフスキーの『虐げられた人々』への考察も絡みあうかたちで物語が展開されていきます。専門家筋では評価の高い作品ですが、私には大江氏らしい挑戦的でありながら誠実な作品と映りました。

 

【満足度】★★★☆☆