文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

J・D・サリンジャー『ナイン・ストーリーズ』

J・D・サリンジャー 柴田元幸

ナイン・ストーリーズ』 ヴィレッジブックス

 

J・D・サリンジャー(1919-2010)の『ナイン・ストーリーズ』を読了しました。3年ほど前に新潮文庫の野崎氏の訳で読んだのですが(さらにその昔、高校生の頃にも読んだ記憶がありますが)、今回は柴田氏の翻訳で通読しました。原著者の意向だと思いますが、本書には解説などは一切付けられておらず、ポンと作品だけが読者の前に提示されます。そんなところも、どこか新鮮に感じられる読書でした。

 

【満足度】★★★☆☆

ラリー・ラウダン『科学と価値 相対主義と実在論を論駁する』

ラリー・ラウダン 小草泰・戸田山和久

『科学と価値 相対主義実在論を論駁する』 勁草書房

 

ラリー・ラウダン(1941-)の『科学と価値 相対主義実在論を論駁する』を読了しました。科学史家・科学哲学者として活躍するラウダンの科学哲学上の主著の翻訳で、原著は1984年に発表されています。「科学者たちの見解はよく対立するにもかかわらず、不一致が解消されて合意が形成されるのはなぜなのか」を主題として、「科学の目的(aim)」についての鋭い考察が展開されます。ちなみに邦訳である本書の副題は「相対主義実在論を論駁する」となっていますが、原著の副題は“The Aims of Science and Their Role in Scientific Debate”となっていて、本書のテーマとしてはやはり原著の副題の方が内容に即しているのではないかと思います。

 

クーンのいう「パラダイム」やラカトシュのいう「リサーチプログラム」に代わるものとして、ラウダンが提示する「網状モデル」が、どこまで科学の営みのあるべき描像となっているかを判断することはできませんが、丁寧な論述は大変勉強になりました。

 

【満足度】★★★★☆

アリ・スミス『秋』

アリ・スミス 木原善彦

『秋』 新潮社

 

アリ・スミス(1962-)の『秋』を読了しました。現代イギリスで注目すべき作家のひとりであるアリ・スミスの作品で、ブッカー賞候補作ともなったのが本書の帯には「最初の『ポスト・ブレグジット』小説」とあります。作中でブレグジットEU離脱)について明示的に触れられる箇所は少ないのですが、それでもその箇所が印象に残ってしまうほどに、ブレグジットがイギリス国内にもたらした分断は様々なかたちでイギリス国民に影を落としているのでしょう。

 

100歳を超えて眠り続ける老人と、昔その老人と隣人同士であった32歳の女性との間の交流(恋愛ともいえるべきもの)を主要なテーマとして本書の物語は綴られていきます。「何を読んでいるのかな?」と問いかける老人の姿と、彼が生きてきた時代とその歴史と、それらを短く印象的なセンテンスで掬い上げてみせるアリ・スミスの筆致は見事で読まされます。訳者あとがきによると、季節四部作として構想され既にイギリスでは刊行されている作品があるようで、それらを楽しみに待ちたいと思います。

 

【満足度】★★★★☆

アン・ビーティ『燃える家』

アン・ビーティ 亀井よし子訳

『燃える家』 ブロンズ新社

 

アン・ビーティ(1947-)の『燃える家』を読了しました。優れた短編作家として知られるアン・ビーティですが、以前に「ニューヨーカー」掲載作品のアンソロジーで読んだ作品の切れ味があまりに見事で、あらためて他の作品も読んで見たいと思っていました。本書『燃える家』は彼女が1982年に発表した短編集です。邦訳が出版されたのは1989年3月のこと。

 

本書を読んで感じたのは同時代性というキーワードで、その部分を欠いてしまってはなかなか彼女の作品の理解や共感に追いつかない部分があるのではないかということです。デイヴィッド・ホックニーの絵を配した表紙カバーが印象に残ります。

 

【満足度】★★★☆☆

フローベール『サラムボー』

フローベール 中條屋進訳

『サラムボー』 岩波文庫

 

フローベール(1821-1880)の『サラムボー』を読了しました。古代カルタゴを舞台に描かれたフローベールの長編第二作目です。前作である『ボヴァリー夫人』とはうってかわって紀元前の歴史に題材を得たフロベールですが、徹底した文体の彫琢と推敲で知られる彼のこと、発揮される方向性は違うものの、ときに残酷で情念にあふれる物語を練られた描写で展開しています。フローベール作品の魅力はその文体にあるのだということを再認識させられたような気がします。

 

【満足度】★★★☆☆

スコット・フィッツジェラルド『ある作家の夕刻 フィッツジェラルド後期作品集』

スコット・フィッツジェラルド 村上春樹編訳

『ある作家の夕刻 フィッツジェラルド後期作品集』 中央公論新社

 

『ある作家の夕刻 フィッツジェラルド後期作品集』を読了しました。フィッツジェラルドの晩年にあたる1930年代に書かれた小説とエッセイを、村上春樹氏の編集・翻訳により刊行した作品集です。村上氏の思い入れほどには、のめり込んで読むことはなかったのですが。

 

【満足度】★★★☆☆

 

 

フローベール『三つの物語』

フローベール 谷口亜沙子訳

『三つの物語』 光文社古典新訳文庫

 

フローベール(1821-1880)の『三つの物語』を読了しました。フローベールが晩年に発表した「素朴な人」「聖ジュリアン伝」「ヘロディアス」の三編が収録された作品集です。未完に終わった長編小説を除くと、フローベールが生前に刊行した最後の作品ということになるようです。

 

主人公である召使フェリシテの姿が印象的な「素朴な人」も良かったのですが、ヨカナーンの首を求めた「サロメ」の裏面を描いた作品ともいえる「ヘロディアス」も印象に残りました。たまに歴史小説を書きたくなるというのが、フローベールの作家としての傾向性なのでしょうか。次は長編第二作目である『サランボー』を読んでみたいと思っています。

 

【満足度】★★★☆☆