文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

平野啓一郎『死刑について』

平野啓一郎

『死刑について』 岩波書店

 

平野啓一郎の『死刑について』を読了しました。政治的な発言をためらうことなく続けている作者ですが、自身のかつての死刑存置派という立場から、死刑廃止論者へと至るきっかけとなった(緩やかで複数の)体験が、本書では丁寧に語られています。自身の考えをできるだけ率直に語ることに努め、反対派を説得しようとする立場には立たないというのが、本書における作者の基本的スタンスとなっています。

 

自身が敬愛し共鳴している人々への自然な共感から死刑廃止論へと促されたという作者ですが、これは分人主義として作者が提唱する考え方からの自然な帰結ではないかと思います。それに共感することが出来るか出来ないかという問題と、死刑の存置・廃止に関する議論を、意図して弁別しようとするほどに作者は難しい立場に置かれることになるように思うのですが、そのことに対する自覚も含めて作者の率直さには好感を覚えます。

 

【満足度】★★★

村上春樹『やがて哀しき外国語』

村上春樹

『やがて哀しき外国語』 講談社文庫

 

村上春樹の『やがて哀しき外国語』を読了しました。「村上朝日堂」などの完全にお気楽なテンションで書かれたエッセイとはやや趣が異なる作品で、1991年から約2年半の間にわたって作者が滞在したアメリカはプリンストンでの日々を綴った手記です。リアルな体験の中で浮かび上がってくる日本を相対化する視座は、30年以上を経た現在の時点から見ても、一定の説得力を持つものになっているように思います。

 

【満足度】★★★☆☆

赤川次郎『三毛猫ホームズの駆落ち』

赤川次郎

三毛猫ホームズの駆落ち』 角川文庫

 

赤川次郎の『三毛猫ホームズの駆落ち』を読了しました。本書では「ロミオとジュリエット」をモチーフにした人間関係から展開される事件が描かれているのですが、よくも悪くもその思い込みを逆手に取ったプロットに作者の意欲が感じられます。作品の内容とは無関係なのですが、北見隆氏による表紙イラストがとても印象的な作品です。

 

【満足度】★★★☆☆

赤川次郎『三姉妹探偵団』

赤川次郎

三姉妹探偵団』 講談社文庫

 

赤川次郎の『三姉妹探偵団』を読了しました。テレビドラマ化もされた(また、記憶が不確かなのですが、たしかアレンジを加えられたかたちで映画化もされた)有名なシリーズ作品です。主人公となる三姉妹の描写で楽しく読ませていく本シリーズですが、描かれる事件自体は何とも悲惨なものとなっています。キャラクター小説としてはよくできていて、特に三姉妹の長女の描写は秀逸だと思います。こうした点からも、作者がミステリー界に与えた影響を垣間見ることができるような気がします。

 

【満足度】★★★☆☆

吉村達也『最後の惨劇』

吉村達也

『最後の惨劇』 徳間文庫

 

吉村達也の『最後の惨劇』を読了しました。「惨劇の村」と題された五部作も本書でエンディングを迎えることとなります。物語の展開としては驚くほど短く感じられて、本書においておこる事件はあっという間に解決が図れることになります。その分読み応えがあるように力が入れられているのは、カットバックで挿入される主人公の「父」とその「友人」を巡る過去の物語で、本書の末尾に付された「事件前史」こそがこの五作品を通じて隠されていた真相を形作るものとなっています。四つの村における惨劇を一つの意思のもとにまとめる手筋はあまり洗練されたものではなく、その点が本シリーズに対する満足度をやや下げてしまっていると思うのですが、それでも作者の意欲が感じられて楽しく読書をすることができました。

 

【満足度】★★★☆☆

吉村達也『月影村の惨劇』

吉村達也

『月影村の惨劇』 徳間文庫

 

吉村達也の『月影村の惨劇』を読了しました。シリーズの四作目となる本書は、どちらかというと番外編といった位置づけの作品で、前作以上に予定調和から外れる異色作となっています。ミステリーとしてのトリックを期待する読者は、かなりの確率で裏切られてしまうのではないかと思うのですが、芸能界の裏側を描く物語としては、通俗的ではありますが、読ませるものはあります。ドラマとしての終幕の作り方にはこだわりが感じられるのですが、いささかバランスが悪い部分も見受けられるように思います。

 

【満足度】★★★☆☆

吉村達也『風吹村の惨劇』

吉村達也

『風吹村の惨劇』 徳間文庫

 

吉村達也の『風吹村の惨劇』を読了しました。一連のシリーズも第三作目を迎えて、読者が心に抱き始める予定調和から外れるようにして、本書においてシリーズの転換点ともいえる展開を持ってくるあたりに、作者の周到な企みが感じられます。ミステリーとしてのテーマも面白いものになっているのですが、単独作品においてこの仕掛けを一つだけ持ってこられると、どうしても物足りなさが感じられてしまうのかもしれません。やはりこの連作は五作全体を通して一つの作品として読まれるべきものなのだと思います。

 

【満足度】★★★☆☆