文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

カート・ヴォネガット『国のない男』

カート・ヴォネガット 金原瑞人

『国のない男』 中公文庫

 

カート・ヴォネガット(1922-2007)の『国のない男』を読了しました。本書は2005年に刊行されたヴォネガットの遺作となった作品で、当時のアメリカの(というよりも世界の)社会情勢も踏まえたユーモラスでありながらも警句的なエッセイです。第二次世界大戦を経験し、『スローターハウス5』をはじめとする作品で「戦争」というものと自身の文学を結びつけて語り続けてきた著者にとって、イラク戦争へと向かう当時の社会状況には物申さざるを得なかったということでしょう。

 

【満足度】★★★☆☆

青木淳悟『学校の近くの家』

青木淳悟

『学校の近くの家』 新潮社

 

青木淳悟の『学校の近くの家』を読了しました。小説というかたちで何か不思議なものを表現しようとする青木氏の作風と、「小学校」という誰もが通過した場所でありながらどこか世間とは隔絶した特殊な空間とは、とても相性がいいのだということをあらためて感じさせられました。本書の帯にある「ノスタルジーも無垢も消失した、驚くべき世界像。瞠目の〈小学生小説〉」という表現は言い得て妙だと思います。

 

【満足度】★★★☆☆

モリエール『タルチュフ』

モリエール 鈴木力衛

『タルチュフ』 岩波文庫

 

モリエール(1622-1673)の『タルチュフ』を読了しました。コルネイユラシーヌと共に17世紀フランスを代表する劇作家のひとりであるモリエールですが、悲劇よりは喜劇の分野で名を成した作品が多く、本書も喜劇として知られています。とはいえ、筋書きとしては深刻な場面も多く、あまり笑えるシーンというものはありません。第三幕まで登場しない「偽善者」タルチュフの謎めいた存在感は、むしろ悲劇的な結末すら予感させるようです。

 

カトリックの秘密結社「聖体秘蹟協会」を巡る本作品の上演禁止のエピソードや、若き国王ルイ14世、母后アンヌ・ドートリッシュや宰相マザランらの政治的な場外乱闘の方にもドラマがあって、本書と同じ訳者の手による『ダルタニャン物語』をゆっくりと読み進めている身としては、作品本体よりもそちらの方に興味が移ってしまうのでしたが。

 

【満足度】★★★☆☆

ウラジーミル・ナボコフ『ロリータ 魅惑者』

ウラジーミル・ナボコフ 若島正・後藤篤訳

『ロリータ 魅惑者』 新潮社

 

ウラジーミル・ナボコフ(1899-1977)の『ロリータ 魅惑者』を読了しました。新潮社から刊行されたナボコフ・コレクションの五巻目に当たる本書には、若島正氏による翻訳にロシア語版との異同を付した増補版の「ロリータ」と、ロシア語からの初訳となる「魅惑者」の二篇が収録されています。

 

「ロリータ」を読むのは大久保康雄氏による翻訳で読んだ1回目、若島氏による翻訳で読んだ2回目に続いて3回目のことになるのですが、本書の解説にも書かれていたロシア語版との異同などからも新しい発見があって、楽しい読書となりました。倒錯的に描かれる終盤のシーンは読むたびに印象が変化します。

 

【満足度】★★★★☆

『20世紀ラテンアメリカ短編選』

野谷文昭編訳

『20世紀ラテンアメリカ短編選』 岩波文庫

 

『20世紀ラテンアメリカ短編選』を読了しました。本書には16人のラテンアメリカ作家による短編が収録されています。ガルシア=マルケス、バルガス=リョサコルタサルフエンテスなど既読の作家もいれば、初めて作品を目にする作家の作品も多数ありました。

 

プロットがしっかりして単純に読みやすかったということもありますが、印象に残ったのはプエルトリコ出身の作家であるアナ・リディア・ベガの「物語の情熱」でした。フランスに住む友人夫婦宅への訪問の様子が、ミステリー作品を含めた文芸作品への言及を含むユーモラスで軽快な文章とともに綴られていきます。内と外を巡る視点の自由さと唐突な結末とが不思議な感覚を残す作品です。

 

【満足度】★★★☆☆

マイクル・コナリー『訣別』

マイクル・コナリー 古川嘉通

『訣別』 講談社文庫

 

マイクル・コナリーの『訣別』を読了しました。2016年に刊行されたハリー・ボッシュシリーズ作品です。原題は“The Wrong Side of Goodbye”で、チャンドラーの『ロング・グッドバイ』が想起されます。ロサンゼルス市警を退職したボッシュは、私立探偵に復帰しながらロス近郊にあるサンフェルナンド市警察に無給の嘱託職員として勤務しています。ボッシュの肩書きが注目ポイントになっているあたりに、時代の流れを感じさせれてしまうのですが。

 

【満足度】★★★☆☆

ヒュー・ロフティング『ドリトル先生航海記』

ヒュー・ロフティング 福岡伸一

ドリトル先生航海記』 新潮文庫

 

ヒュー・ロフティング(1886-1947)の『ドリトル先生航海記』を読了しました。「ドリトル先生」シリーズは、イギリス生まれの土木技師である作者が娘と息子のために書いた物語が原型となったもので、今では世界中で愛される児童文学シリーズとなっています。本書はその二作目にあたる作品です。

 

登場人物(動物?)の造形も巧みで面白く読むことができましたが、一冊で十分かなという気はします。

 

【満足度】★★★☆☆