文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

シャミッソー『影をなくした男』

シャミッソー 池内紀

『影をなくした男』 岩波文庫

 

アーデルベルト・フォン・シャミッソー(1781-1838)はフランスに生まれながら、フランス革命により家族でドイツに亡命し、ドイツで詩人そして植物学者として活躍した人物です。そんなシャミッソーが友人の子供たちのために書いたメルヘンが本書『影をなくした男』。ドイツ語の原題は“Peter Schlemihls wundersame Geschichte”で、直訳すると『ペーター・シュレミールの不思議な物語』となります。

 

主人公のシュレミールは灰色の服の男から、自分の影と引き換えに、無尽蔵に金貨を吐き出す「幸運の袋」を受け取ります。しかし、影を失ったシュレミールはそのおかげで社会的な信用を失ってしまい、愛する人との結婚も許されなくなってしまいます。再開した灰色の服の男から、影を取り戻すためには自分の魂との交換が必要であると告げられたシュレミールは、その申し出をはねつけて、幸運の袋を投げ捨てます。失意に暮れたシュレミールはその後の孤独な旅路のなかで一歩で七里を行くことができる魔法の靴を手に入れて、作者であるシャミッソーと同じ植物学者としての生活を選びます。

 

原題にある通り「不思議な物語」で、私にとってのその不思議さは「なぜ影を失ったくらいで、シュレミールはすべてを失わなければならなかったのか」という点にあるように思われます。本書のなかで、影を失うということは後ろ暗い秘密を抱えることと同義に描かれています。そして、自分の影を取り戻してその後ろ暗い秘密を解消するためには、死後に自分の魂を差し出さなければならないことが示されるのですが、シュレミールはそれを拒否していわば自分の罪を抱えて生きることを選びます。

 

短い物語ですが、緊密な構成でなかなか読ませるストーリーでした。読み終えた後で、いろいろと語りいろいろと考察したくなる物語でもあります。

 

【満足度】★★★☆☆