文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

冨田恭彦『ローティ 連帯と自己超克の思想』

冨田恭彦

『ローティ 連帯と自己超克の思想』 筑摩書房

 

冨田恭彦『ローティ 連帯と自己超克の思想』を読了しました。ロック研究者として知られる著者は『ロック哲学の隠された論理』の中で、『人間知性論』におけるロックの言説は実はほとんどが正しかったのだという主張を行っています。そしてそのロック研究に基づいて、同じくイギリス経験論者であるバークリーや、近代哲学のひとつの完成者であるカントの哲学の批判を著しています。そんな著者が高く評価する哲学者が本書の主役であるリチャード・ローティです。

 

ローティは主著である『哲学と自然の鏡』の中で、ロックを取り上げて哲学を自然の鏡として捉える見方を定着させた元凶のひとりとして批判しています。一方、冨田はロックをローティ哲学の先駆者として評価します。ローティの生前、冨田とローティとの間にはロック哲学を巡る解釈について議論があったとのこと。しかしそんな議論はさておいても、本書からは冨田氏のローティに対する「愛」がひしひしと伝わってきます。

 

アメリカの分析哲学ならびにプラグマティズムの系譜に位置する思想家でありながら、ニーチェハイデガーなど大陸の哲学者も高く評価するローティは、やはりユニークな哲学者です。そのユニークさの内実を知るには、彼の政治哲学に目を配る必要があるような気がします。伝統的な存在論や認識論に対して、破壊や転覆ではない何かをローティがなし得ているのかというのは私にとっては疑問なのですが。

 

【満足度】★★★☆☆