文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

レオナルド・パドゥーラ『犬を愛した男』

レオナルド・パドゥーラ 寺尾隆吉訳

『犬を愛した男』 水声社

 

レオナルド・パドゥーラ(1955-)の『犬を愛した男』を読了しました。キューバの作家であるパドゥーラは、マリオ・コンデ警部補シリーズとして知られるミステリー小説で人気を博する作家とのことですが、トロツキーの暗殺事件を題材にした本書はスペイン語圏でのベストセラーになったとのこと。

 

キューバ革命を経て樹立された社会主義国家の中でどこか空虚な気分を抱えながら暮らしている作家イバン、ソヴィエト連邦社会主義思想家であるトロツキー、そしてトロツキー暗殺の実行犯となったラモン・メルカデルを描く三つのパートが交互に繰り返されるかたちで本書は構成されています。このあたりの盛り上げの作り方は、いかにもミステリ作家という印象があるのですが、作者と同化できそうでいながら、年代など少しだけずらしているイバンの存在など、リーダブルでない引っかかりの部分に面白さを感じることができます。

 

帯にある「キューバ文学の到達点」というコピーはいささか誇大広告気味だと思うのですが、楽しく読むことはできました。

 

【満足度】★★★★☆