文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ボリス・ヴィアン『お前らの墓につばを吐いてやる』

ボリス・ヴィアン 鈴木創士訳

『お前らの墓につばを吐いてやる』 河出文庫

 

ボリス・ヴィアン(1920-1959)の『お前らの墓につばを吐いてやる』を読了しました。『日々の泡』を読んだのは、高校時代だったかあるいは大学時代だったのかはっきりとは覚えていないのですが、それ以来のボリス・ヴィアンの読書ということになります。破天荒な人生を送ったボリス・ヴィアンのファンは多いのだと思いますが、『日々の泡』を読んだ若かりし頃の私は、正直ピンと来なかったことは何となく覚えています。

 

本作『お前らの墓につばを吐いてやる』は、黒人には見えない黒人の主人公が白人の姉妹に近づいて「二人の娘を叩きのめす」という筋立てなのですが、私が読んでいる新訳ではこの物語は「ノワール」として紹介されています。主人公の正体やその意図が徐々に明かされてくるという展開は、ミステリーの手法であると言えなくもありません。クライマックスに向かってストーリーをドライブしていく筆の運びは、ボリス・ヴィアンが作品のエンターテイメント性も十分に意識していたことを窺わせます。

 

過激な描写のその過激さゆえにハッとさせられる部分はあるのですが、それ以上のものが何かあるかと言われると、今の私にはよく解らないという感想です。しかし、その意図はよく解るような気がする、といったところでしょうか。ボリス・ヴィアンのこの小説は、彼の39年の短い生涯と同じように、一瞬の閃きのもとに著された即興芸術のようなものなのかもしれません。彼がジャズミュージシャンであることは本書のカバーに記された彼のプロフィールで初めて知ったのですが。

 

幕間のような読書体験でした。しかし、本の内容とはまったく関係がありませんが、この260ページほどの薄い文庫本が920円とは…。デフレの社会に逆行するように本の値段は本当に高くなっていると感じます。

 

【満足度】★★★☆☆