文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ヴァージニア・ウルフ『自分だけの部屋』

ヴァージニア・ウルフ 川本静子訳

『自分だけの部屋』 みすず書房

 

ヴァージニア・ウルフ(1882-1941)の『自分だけの部屋』を読了しました。古本市で購入したヴァージニア・ウルフコレクションの中の一冊で、このような出会いがなければ手に取ることがなかった本だと思います。寝る前のわずかな時間に少しずつ読み進めていきました。

 

本書はヴァージニア・ウルフケンブリッジで行った講演をもとにして編纂されています。「意識の流れ」の手法を用いて著された難解な小説とは異なり、聴衆に語りかけるような口調で訳された本書はすんなりと頭の中に入ってきます。しかし、ヴァージニア・ウルフのその語り口は場面転換の巧みさによって、まるで彼女の小説作品のように読者の意識を社会の中のあらゆる細部に焦点化させながら、彼女がこの講演において主張したいひとつのテーゼへと聴衆/読者を導いていきます。

 

そのテーゼとは「女性が小説なり詩なりを書こうとするなあら、年に500ポンドの収入とドアに鍵のかかる部屋を持つ必要がある」という、ある意味では身も蓋もない主張なのですが、経済的な豊かさと精神的な自立とを詩作の必要条件とするこのテーゼは、現代の社会においては人々の心にどのように響くのでしょうか。私の世代ではもはやフェミニズム批評というのが遠い世界の話に聞こえるというとそれは言い過ぎなのだと思いますが、本書を読んだ際の私の関心は前段落で述べたような彼女の表現技法の方に向けられてしまうのでした。

 

ヴァージニア・ウルフコレクションを読み進めて、『ダロウェイ夫人』をもう一度読み直す頃には、20世紀の小説がもう少し私にとってピンと来るものになっているでしょうか。

 

【満足度】★★★★☆