伊藤邦武『フランス認識論における非決定論の研究』
伊藤邦武
伊藤邦武の『フランス認識論における非決定論の研究』を読了しました。ブートルー、ポアンカレ、デュルケームという日本の哲学研究史においては決して注目されてきたとはいえないフランスの3人の思想家に「非決定論」という主題から光を当てた研究書です。著者の師匠筋にあたる野田又夫氏やイアン・ハッキングから受けた影響も語られながら、ウィリアム・ジェイムズを通じて著者の専門であるアメリカのプラグマティズムにも合流するこの思想史上の潮流は、まさに著者のこれまでの研究のクロスポイントであるといえそうです。
二十世紀後半の哲学における主戦場となった科学的実在論と反実在論を巡る論争からは一定の距離を置きながら、著者はブートルーの掲げる「偶然性と自由の哲学」のうちに、これからの哲学の可能性を見て取ります。哲学史に対する広く深い視野を持つ著者ならではの視点で、深く考えさせられるものがあります。
【満足度】★★★★☆