ドン・デリーロ『ボディ・アーティスト』
ドン・デリーロ 上岡伸雄訳
『ボディ・アーティスト』 ちくま文庫
ドン・デリーロ(1936-)の『ボディ・アーティスト』を読了しました。2001年に発表された作品で、文庫本の翻訳で約200ページほどの分量です。
タイトルとなっている「ボディ・アーティスト」とは、第一義的には主人公であるローレン・ハートケのことを指しています。本書は全部で七章から成っているのですが、第六章と第七章の間に「ボディ・アートの極限」と題されたアート評論が挿入され、そこでは自身の身体性を媒介にして世界との関係を切り結ぶローレンの「ボディ・タイム」と呼ばれるパフォーマンスが、マリエラ・チャップマンという人物によって客観的な視座から論評されます。
それに先立つ章では、映画監督であるローレンの夫の自殺、そして二人が暮らしていた家にいつの間にか現れた(あるいはずっと存在していた)不思議な男の姿が描かれます。
彼は言った。「月光を意味する単語は月光」
これを聞いて彼女は嬉しくなった。それは論理的には複雑で、奇妙に感動的であり、循環的な美と真理をもっていた――あるいは、循環的というよりも最大限に直線的なのかもしれない。
言語によって世界が立ち現れてくる様に触れたときに、「ボディ・アーティスト」はそれをどのように捉えるのか。まさに複雑でありながら感動的なものを、デリーロは描こうとしているようにも思われます。
【満足度】★★★☆☆