文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

トルストイ『幼年時代』

トルストイ 藤沼貴訳

幼年時代』 岩波文庫

 

トルストイ(1828-1910)の『幼年時代』を読了しました。トルストイが23歳の若さのときに発表した処女小説で、ツルゲーネフはこの作品を激賞したとのこと。繊細に描かれた10歳の少年の内的生活は、自伝的作品として作者のそれを思わせるものであるようでいて、おそらくはそれだけに止まらない客観的な視座も具備していて、そのバランスの見事さが読者の心を捉えます。

 

母親の死をもって終焉を迎える「幼年時代」は、その最初からどこか愁いを帯びた様子があります。少年自身の視点で語られる本書の物語はいつか決定的な終わりを迎えるということをあらかじめ決定されており、さらには少年自身が頭のどこかでそのことを理解しているかのように感じられるところがあって、それが上記の客観的な視座という印象に繋がっているのではないかと思います。

 

【満足度】★★★☆☆