文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

村上春樹『海辺のカフカ』

村上春樹

海辺のカフカ』 新潮文庫

 

村上春樹の『海辺のカフカ』を読了しました。随分と久し振りの読み返すことになりましたが、物語の展開など比較的細部に至るまで記憶に残っていて、今回は長い物語の全体を成す骨格の部分に注意しながら読み進めていく読書となりました。オイディプス王の悲劇をモチーフにしながら、自らをカフカと名乗る15歳の少年が自らの運命に対してどのように立ち向かったのか、その様が寓意的に描かれています。

 

人が人を操ろうとするときに何をその餌とするのか、そしてそれが通じない人物(たとえば本書でいう「ナカタさん」)に対してはどのような手段を用いるのか、また主人公の魂の遍歴が決して個というものに閉じられたものではなく、ある種の普遍性を帯びたものであるということを予感させる終章でのエピソードなど、新しい気付きのようなものもあって意義深い読書だったような気がします。

 

【満足度】★★★★☆