文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

カーソン・マッカラーズ『結婚式のメンバー』

カーソン・マッカラーズ 村上春樹

『結婚式のメンバー』 新潮文庫

 

カーソン・マッカラーズ(1917-1967)の『結婚式のメンバー』を読了しました。「村上柴田翻訳堂」と題された新潮文庫の新訳・復刊のシリーズで、全10冊が刊行されています。本書は村上春樹さんの新訳ですね。なんにしても翻訳文学が増えてくれるのはうれしいことです。

 

本書の主人公は南部の田舎町に暮らす12歳の少女で、兄の結婚式が執り行われたあるひと夏(「緑色をした気の触れた夏」)の出来事が語られます。自分がどこにも属していないと感じる少女フランキーは、「結婚式のメンバー」としての自分を見出して、日常を乗り越えていこうと画策します。ユーモラスなのですが切実さをもって語られる数々のエピソードは、フランキーの抱える孤独の輪郭を浮き彫りにしていきます。

 

フランキーの身の回りにあって、彼女を日常の外側へ連れ出してくれそうなものは「結婚式」だったわけですが、これがもし(変なたとえではありますが)彼女本人の結婚式であったとすれば、ある意味でそれはまた別の軛を彼女に与えるものになっていたかもしれません。「結婚式のメンバー」という奇妙なタイトルが表している絶妙なものを、フランキーはその先手に入れることはできるのでしょうか?

 

しかし、本書の内容とはまったく関係はありませんが、本書が新潮文庫の「む」の棚に並んでいるのは、他に何とかならなかったものかと思います。海外文学の普及に村上春樹さんが果たした役割は大きいと思うのですが、彼のファン以外の人に本書を手に取ってもらうことこそ必要なのではないでしょうか。

 

【満足度】★★★★☆