『JR』 国書刊行会
ウィリアム・ギャディス(1922-1998)の『JR』を読了しました。1975年に発表された本書の原題は“JR FAMILY OF COMPANIES”で、11歳の少年JRがひょんなことから手にした株式をもとに巨大コングロマリットを創り上げて、世界経済に波乱を巻き起こすという筋立てになっています。一方で、意図的に5Wを欠いたかたちで叙述される物語は、そこがどこなのか、一体誰がしゃべっているのか、その場で何が起きているのか、といった読書における基本的な把握事項を、思い込みに満ちた登場人物たちの台詞と申し訳ばかりに挿入される地の文から類推するしかないという代物で、到底一回の読書だけでは複雑なプロットをすべて飲み込むことはできない構成になっています。
ハードカバー二段組で本文が900ページという長大な作品ですが、不思議ともう一度読みたくなってしまう魅力を持っています。錯綜するプロットの中から新しい発見をしていくことこそを読書の喜びと感じる読者にとっては、まさに格好の課題がここにはあるのでしょう。
【満足度】★★★★☆