文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

カズオ・イシグロ『クララとお日さま』

カズオ・イシグロ 土屋政雄

『クララとお日さま』 早川書房

 

カズオ・イシグロの『クララとお日さま』を読了しました。原題は“Klara and the Sun”です。ノーベル文学賞受賞第一作と謳われる本書のテーマは「AI」で、同じく現代イギリスを代表する作家のひとりであるイアン・マキューアンの近作『恋するアダム』と読み比べてみると、それぞれの作家の個性を感じることができるかもしれません。

 

本書の主人公は人工知能を搭載したロボットであるクララで、作中では「AF」(“Artificial Friend”の略語だと思いますが)と称されています。ショーウィンドウで来るべき「お友だち」を待つクララは、やがて病弱な少女ジョジーとその母親の家族へと引き取られます。その後の展開についてここで語ることは止めておこうと思いますが、イシグロらしい抑制(というより省略)の効いた筆致と感動的なストーリーラインは健在です。

 

この物語の中でクララが持ち得たものはどれも人間存在にとって本質的と考えられるものばかりであり、逆にクララが決して手にすることができなかったものは、どれも人間の本質には不要なものばかり、という逆説的な事態が浮かび上がってくるようで、なかなかに考えさせられてしまいます。

 

【満足度】★★★★☆