文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ミシェル・ウエルベック『プラットフォーム』

ミシェル・ウエルベック 中村佳子

『プラットフォーム』 河出文庫

 

ミシェル・ウエルベック(1957-)の『プラットフォーム』を読了しました。2000年の『ランサローテ島』に続いて2001年に発表された本書で、ウエルベックが選んだのは「セックス観光」というテーマです。『ランサローテ島』を読んだときにも感じたことなのですが、ひとりで観光に出かける男性の心情をウエルベックは非常に巧みに描写してみせます。旅行会社とのやり取りの描写もなかなかリアルで、彼が得意とするフィールドなのかなかと感じます。

 

極めて苦々しい終盤の出来事の受け取り方は読者によって様々だと思うのですが、私個人の感想としては、現代の小説の方法論としてかなり真っ当なものであるように思われました。正邪の境界線が曖昧というか、それ自体が容易に揺らいでしまうものである現代にあって、その揺らぎを微細に表現してみせることよりも、白か黒かの判断をストレートに下さざるを得ない仕方で提示してみせるウエルベックの手つきは、小説世界の構築においてそこに至るまでの積み重ねを怠っていない分、納得感を覚えさせるものになっているのではないでしょうか。資本主義の下での性産業とそれを否定する暴力的なテロリズム、前者は強固なシステムであるのに対して後者はそれに抗う瞬間的な運動であり、そこには両者を単純に比較することを拒む存在論的な非対称性があって、いずれにしても苦々しい絶望しか残らないというのがウエルベックが示してみせた現代社会の隘路なのだと思います。

 

【満足度】★★★★☆