文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

J・M・クッツェー『夷狄を待ちながら』

J・M・クッツェー 土岐恒二訳

『夷狄を待ちながら』 集英社文庫

 

J・M・クッツェー(1940-)の『夷狄を待ちながら』を読了しました。本書はクッツェーの第三作目となる長編小説で、ブッカー賞を受賞した『マイケル・K』の三年前に発表された作品です。発表されたのは1980年で、まだ当時の南アフリカには厳しい検閲制度があったとのこと。『マイケル・K』とよく似た寓話的な作品ですが、そこへと至る前の萌芽といった印象も感じました。

 

辺境の町で民政官を勤める主人公は、蛮族である夷狄と通じたとして、中央から訪れた治安警察によって残酷な拷問を受けるのですが、その様子は時に本書が比せられるカフカの作品が持つ非現実性とは違って、本作において明らかにリアルな暴力として機能することを企図しているように思われます。やはり本書は同じくカフカとの関連が指摘される『マイケル・K』への必要な助走だったのではないかと感じます。

 

【満足度】★★★★☆