文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

北村薫『太宰治の辞書』

北村薫

太宰治の辞書』 創元推理文庫

 

北村薫の『太宰治の辞書』を読了しました。円紫さんと《私》のシリーズ第六作目です。登場人物もすっかり歳を重ねていて、第一作で大学生だった《私》も、本作では出版社に勤めるベテラン編集者になっています。本をこよなく愛する北村氏の書物愛と本格ミステリ愛とが融合して生まれる謎と謎解きの物語は、私自身も歳を重ねたからこそまた味わい深く感じられるのでした。

 

【満足度】★★★☆☆

ロバート・L・スティーブンソン『宝島』

ロバート・L・スティーブンソン 鈴木恵訳

『宝島』 新潮文庫

 

ロバート・L・スティーブンソン(1850-1894)の『宝島』を読了しました。『ジキルとハイド』の著者としてよく知られているスティーブンソンですが、本書『宝島』もつとに有名な作品です。とはいえ、子ども向けの抄訳やアニメ・漫画か何かで見た記憶はあるものの、詳細なあらすじについてはまったく覚えていない作品でもあります。新潮文庫のスタークラシックスのシリーズは、普段なかなか手に取ることがないジュブナイル作品を読む絶好の機会になっていて、個人的にはありがたいのですが。

 

片足の海賊シルヴァーの存在感が際立つ本書『宝島』ですが、プロットもなかなかよく練られている印象を受けました。起承転結がはっきりしているというか、そういう意味でも漫画やアニメに向いているのかもしれません。

 

【満足度】★★★☆☆

W・V・O・クワイン『論理的観点から 論理と哲学をめぐる九章』

W・V・O・クワイン 飯田隆

『論理的観点から 論理と哲学をめぐる九章』 勁草書房

 

W・V・O・クワイン(1908-2000)の『論理的観点から 論理と哲学をめぐる九章』を読了しました。本書には、これを読んでいないと「モグリ」の哲学研究者と言われてしまうという「経験主義の二つのドグマ」を含む9編の論文が収録されています。

 

この二つのドグマとは、「分析的」と「総合的」の区別、そして要素還元主義の二つを指しているのですが、ここで論敵とされているのは「経験主義」で、もう少し突っ込んでいうと論理実証主義であり、クワインの師匠的存在であるカルナップです。そして、この二つのドグマの存在を明らかにすることで浮かび上がってくるのがクワインの採る全体主義的立場というわけなのですが、こうした図式的なまとめ方ではクワインの議論の実際の内実は伝わりづらいような気もします。「経験主義の二つのドグマ」の大部分においてなされているのは、「同義性」というものをめぐるクワインの疑念の表明であり、この問題をテクニカルに追及していった先に実りあるものが存在しているようにも思えません。

 

【満足度】★★★☆☆

内井惣七『シャーロック・ホームズの推理学』

内井惣七

シャーロック・ホームズの推理学』 講談社現代新書

 

内井惣七の『シャーロック・ホームズの推理学』を読了しました。シャーロック・ホームズは狭い意味での“logician”だったということを、ホームズの台詞や行動と19世紀の科学方法論とを比較するかたちで示そうとする試みです。

 

シャーロック・ホームズの推理というものを例にとりながら、正統的な科学哲学の歴史を学ぶことができるというのが本書の売りですが、19世紀の科学方法論自体がそれをすっきりとまとめるには少し陰影があり過ぎて、なかなか解りにくいことになっているような気がします。しかし、ホームズの推理法を科学哲学の専門家が解説したものとして、本書には類を見ない価値があると思います。

 

最後に付け加えられる進化論に関する論述については、面白かったのですが、本書のテーマからは蛇足ともいえるかもしれません。

 

【満足度】★★★★☆

坂本百大編『現代哲学基本論文集Ⅱ』

坂本百大編

『現代哲学基本論文集Ⅱ』 勁草書房

 

坂本百大編『現代哲学基本論文集Ⅱ』を読了しました。本書の収録作品は以下の通りです。

 

ジョージ・E・ムーア『観念論論駁』

ルフレッド・タルスキ『真理の意味論的観点と意味論の基礎』

ウィラード・V・O・クワイン『存在と必然性に関する考察』

ギルバート・ライル『系統的に誤解を招く諸表現』

ピーター・E・ストローソン『指示について』

 

分析哲学の成果を学ぶ上で、タルスキの論文は必読です。帯に記された「現代哲学の青年期」というコピーが妙に心に沁みます。

 

【満足度】★★★★☆

冨田恭彦『クワインと現代アメリカ哲学』

冨田恭彦

クワインと現代アメリカ哲学』 世界思想社

 

冨田恭彦の『クワインと現代アメリカ哲学』を読了しました。1994年に出版されている本書ですが、内容的には四半世紀を過ぎても古びることなく、クワイン哲学の良い入門書になっていると思います。とりわけカルナップの思想との関係の論述や、体表刺激や観察文に関する(実際クワインに対して行ったインタビューの様子も援用されている)論及など、専門的にクワインの思想を学ぼうという人にとっても助けになるものだと思います。

 

しかし、著者一押しのローティに関する論述については、どこか隔靴搔痒というか、何とも煮え切らないものを感じてしまうのでした。この違和感はきっと、私がローティの著書自体に取り組むことでしか解消されないのだと思います。

 

【満足度】★★★★☆

飯田隆『言語哲学大全Ⅳ 真理と意味』

飯田隆

言語哲学大全Ⅳ 真理と意味』 勁草書房

 

飯田隆の『言語哲学大全Ⅳ 真理と意味』を読了しました。全四巻をなす『言語哲学大全』の完結巻となります。本書の主題はデイヴィドソンのプログラムを継承するかたちで、自然言語である日本語(の一部)に意味論を与えるという試みにあります。デイヴィドソン哲学の体系的な入門書を期待すると完全に肩透かしをくってしまうのですが、まさに言語哲学に真剣に取り組んだ哲学者にしか書けないのが本書であると言えると思います。

 

【満足度】★★★☆☆