文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

イアン・マキューアン『ソーラー』

イアン・マキューアン 村松潔訳

『ソーラー』 新潮社

 

イアン・マキューアン(1948-)の『ソーラー』を読了しました。マキューアンの作品はそのどれもが面白くはあるのですが、深く心を動かされることはない、という私にとっては鬼門(?)のような作家になっています。本書は2010年に発表された長編作品です。少しひねった邦題をつけられることの多いマキューアンの作品ですが、本書の原題はそのまま“Solar”です。

 

架空のノーベル賞物理学者を主人公に据えた本書の魅力は一体どこにあるのかと問われると、それは行為の動機と行為の結果とが矛盾に満ちた仕方で同居している現代社会に対するアイロニーということになるのでしょうか。本書の主人公ビアードの憎めなさは、そこに私たち自身を見るからというのは言い過ぎなのかもしれませんが、彼が見せる打算的な行為も、自分の欲望への忠実さも、時折披露する真っ当な正義感も、いずれも私たちに馴染みのあるものではないでしょうか。

 

マキューアン作品もこれで六作目。見知りが愛着に変わってきている部分もあるのかもしれませんし、時折嫌な気分にさせられることはあるものの、引き続き彼の作品を読み続けていきたいと思います。

 

【満足度】★★★★☆