文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

レヴィ=ストロース『悲しき熱帯』

レヴィ=ストロース 川田順造

『悲しき熱帯』 中公クラシックス

 

レヴィ=ストロース(1908-2009)の『悲しき熱帯』を読了しました。文化人類学者で「構造主義」の思想家として知られるレヴィ=ストロースが、博士論文である『親族の基本構造』に次いで発表したのが本書です。

 

本書を読み進めながら、私の頭の中から去ることがなかったのは「一体この本は何を言おうとしているのか」という疑問でした。文化人類学の学術論文なのか紀行文なのか、あるいは哲学的思索の書なのか。本書の末尾で、この疑問符は著者であるレヴィ=ストロース自身の中にある葛藤に由来するものであることを知らされます。

 

民俗学者は、彼の選んだ状況に由来する矛盾からどのようにして抜け出せるのであろうか? 彼の目の前には、彼が研究してもよい一つの社会、彼の社会がある。なぜ、彼はこの社会を軽んじ、特別の忍耐と献身――同郷人に対してはそれを拒むことを、彼は決意していながら――を、最も遠く離れ最も異なった社会の中から選んだ他の社会のためにとっておくことにしたのか?

 

これは民俗学文化人類学)という営みに内在する葛藤なのだと思うのですが、それと真摯に向き合おうとした結果として、本書が出来上がっだのだということが解ります。

 

【満足度】★★★☆☆