文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ヘルマン・ヘッセ『ガラス球遊戯』

ヘルマン・ヘッセ 井出賁夫訳

『ガラス球遊戯』 角川文庫

 

ヘルマン・ヘッセ(1877-1962)の『ガラス球遊戯』を読了しました。本書はヘッセがノーベル文学賞を受賞する契機となったといわれている作品のようで、1943年に発表されたものです。『荒野のおおかみ』が1927年の作品で、『知と愛』が1930年の作品ですから、それら比較的後期の作品よりも10年以上も後に刊行された、ヘッセ晩年の作品に当たります。

 

原題の“Das Glasperlenspiel”を直訳した「ガラス球遊戯」とは、つまるところは文字通りガラス球を使った遊戯(ゲーム)のことなのですが、音楽から派生したと言われるその遊戯は、いわばピュタゴラスの時代から連綿と続く数や音楽への純粋な憧憬が結晶化した究極の芸術行為として、作中においてまさに「それ自身として価値を持つもの」として人々によって受容されています。作中の近未来の世界にあって、カスターリエンと呼ばれる教団(芸術団体でありながら一定の行政的権力も持っているかのようです)の頂点に立つのは、マギステル・ルーディーと呼ばれるガラス球遊戯の指導者。本書はそのマギステル・ルーディーとなるべく運命付けられた人物、ヨーゼフ・クネヒトの伝記と遺稿という体裁を取った作品で、ヘッセの芸術観と社会観が余すことなく展開されています。

 

非常に読み応えのある小説でした。一筋縄ではいかないところが、この小説の核を成していて、それゆえに読者を惹き付けるのだと思います。

 

【満足度】★★★★☆