ヒラリー・パトナム 関口浩喜他訳
ヒラリー・パトナム(1926-2016)の『存在論抜きの倫理』を読了しました。2002年に発表された本書は、イタリアのペルージャ大学で行われた連続講義と、オランダはアムステルダムで行われたスピノザ講義をもとに編まれたものです。いずれも2001年に行われたもので、前者は第一部「存在論抜きの倫理」として、後者は第二部「啓蒙とプラグマティズム」として本書に収録されています。
パトナムは、ハイデガーの実存論的なアプローチを意識しながら、そこからは距離を置くかたちで、西洋の伝統的な意味での存在論について整理した後、倫理というものを存在論の頸木から開放するべくその本質的に多様な相貌を描いていきます。その結果、レヴィナスが「顔」という概念で捉えた倫理の姿に接近していく様は興味深いのですが。また本書の第二部では、20世紀後半におけるポストモダン思想がもたらしたある種の息苦しさ(?)からの自由を謳歌するようにして、「啓蒙」についての宣言がなされます。21世紀のプラグマティズムの展開へと繋がるパトナムの悠揚とした声を聞くことができる、楽しい読書でした。
【満足度】★★★★☆