文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

チェーホフ『六号病棟・退屈な話 他五篇』

チェーホフ 松下裕訳

『六号病棟・退屈な話 他五篇』 岩波文庫

 

チェーホフ(1860-1904)の『六号病棟・退屈な話 他五篇』を読了しました。「桜の園」などの戯曲で有名なチェーホフですが、短編作家としても世界中にファンのいる作家で、私もかつていくつかの短編集をたしかに読んだ経験があります。しかし、なぜだかそのどれもがまったく印象に残っておらず、チェーホフは私にとってはどこか相性の良くない作家という認識があったのですが、今回あらためて全七編の短編が収録された本書を手に取りました。

 

収録作品のなかでも特に長いのは表題作にもなっている「六号病棟」と「退屈な話」です。「六号病棟」はまるで「奇妙な味」ミステリーの王道のような物語ですが、その淡々とした筆致が恐ろしくも感じられる不思議な読後感があります。全体としてドラマティックな展開を見せる物語は集中になく、子どもを亡くしたばかりの医者が診察に出かけて行った先で駆け落ちされた夫と罵りあうという作品「敵」にあっても、舞台設定が整えられてしまった後はそれ以上の何かが展開することもなく、いわば静かに進行していく印象です。

 

「敵」にしても「六号病棟」にしても面白さは感じるのですが、どことなく物足りなさを感じてしまう。今回のチェーホフの読書もそんな感覚で、これは一体どういうわけなのか解らないのですが、これはもう単純に好みの問題なのかもしれません。時が経てばまた変わる部分もあるのでしょうが。

 

【満足度】★★★☆☆