トーマス・メレ 金志成訳
『背後の世界』 河出書房新社
トーマス・メレ(1975-)の『背後の世界』を読了しました。現代ドイツ文学を代表する作家のひとりとされるトーマス・メレの初邦訳作品が本書です。帯の言葉には「あまりに赤裸々な告白の数々、作家や出版人は全員実名で登場。病の当事者が語る『闘病記』にしてポップカルチャー、音楽へのオマージュ」とあります。
帯の宣伝文にもある通り、本書は「双極性障害」(現時点では「躁うつ病」という言葉の方が馴染みのある人が多いと思いますが)という病を抱えるメレが自身の体験を赤裸々につづった、いわば私小説という性格の作品です。ただそこで語られるエピソードは、ゴシップに引き寄せられる大衆的な性向を満足させるものであるというよりは、いたって記述的なもので、その症状を的確に捉えた語り口によって、本書は読ませる「小説」になっているのだと思います。
本書はメレの才能による「力技」によって成立しえた作品のようにも思えるのですが、彼がこれから他にどんな作品を世に創造していくのか、同時代を生きる人間として(彼が言及するロックミュージックは私にも馴染み深いものです)、今後の作品にも注目していきたいと思います。しっかりと翻訳が出版され続けることを願っています。
【満足度】★★★★☆