文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

バルガス=リョサ『ラ・カテドラルでの対話』

バルガス=リョサ 旦敬介訳

『ラ・カテドラルでの対話』 岩波文庫

 

バルガス=リョサの『ラ・カテドラルでの対話』を読了しました。『都会と犬ども』、『緑の家』に続くバルガス=リョサの第三作目の長編作品です。「これまでに書いたすべての作品の中から一冊だけ、火事場から救い出せるのだとしたら、私はこの作品を救い出すだろう」(1998)と述べるほど、作者自身にとっても愛着のある作品とのこと。

 

文庫本にして上下巻合計で1,000ページを超える長大な作品である本書は、新聞記者であるサンティアーゴが、かつて父の使用人であったアンブローシオと再会し、安酒場(大衆食堂のような場所でしょうか)〈ラ・カテドラル〉で対話をする場面から始まります。そして、サンティアーゴとその友人や家族、そして現在の同僚を巡る物語と、ペルー独裁政権下で治安維持の任に当たるカヨ・ベルムーデスの姿が時制を複雑に入れ替えながら描かれることで、「あの陰鬱な年月の政治的、社会的歴史を再現したもの」がこの小説であると(作者自身によって)語られます。

 

自由間接話法を用いた語りの技法については、訳者による解説にて詳述されていますが、それ以外にも方法論に意識的な作家であるバルガス=リョサによって、本書には記述レベルで様々な仕掛けが施されています。時空を異にする登場人物たち(AとB、そしてCとD)の会話がA→C→B→Dの順に並べられるなど、漫然と読んでいては頭が混乱しそうになってしまうのですが、何となくそれらをするりと読めてしまうのがバルガス=リョサの作品の不思議な魅力になっていると思います。本作も非常に楽しく読むことができました。

 

【満足度】★★★★☆