文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

オクタビオ・パス『弓と竪琴』

オクタビオ・パス 牛島信明

『弓と竪琴』 岩波文庫

 

オクタビオ・パス(1914-1998)の『弓と竪琴』を読了しました。本書はメキシコの詩人であり、ノーベル文学賞受賞者でもあるオクタビオ・パスの著した詩論です。彼の詩を読まずして詩論を読むというのも、明らかな片手落ちではあるのですが、いつか彼の詩を読む日が来ることを信じて、まずは詩論からという気持ちで読み始めます。この一ヶ月ほど、ひたすら帰りの電車の中で読みふけっていました。

 

シュールレアリストとして出発したというパスは、その文学者としての出自からしても、創作技法に極めて意識的な存在であると言えます。本書においても、ギリシア悲劇からモダニズム文学に至るまでの文学史をはじめ、西洋哲学、文化人類学、東洋思想などまさに縦横無尽の知識を動員して、彼が詩の要素であり本質であると考えるものを描き出そうと試みています。それらところどころの細かい記述には少し首を傾げさせられるところもあるのですが、彼の圧倒的な筆圧でもってねじ伏せられてしまうところもあります。

 

ポエジー、言語、リズム、イメージ、詩的啓示、インスピレーション等々。パスが詩を分析する手筋は合理精神の塊のようでいて、良くも悪くもそれに囚われることのない筆の暴走が本書の一番の魅力になっているのでしょう。そうした意味では、本書は詩「論」であるというよりも「詩」に近いものであると言ってもよいのかもしれません。

 

【満足度】★★★★☆