文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

中村健之介『ドストエフスキー人物事典』

中村健之介

ドストエフスキー人物事典』 講談社学術文庫

 

中村健之介の『ドストエフスキー人物事典』を読了しました。書店の店頭で見かけて何の気なしに購入したのですが、控えめにいって「当たり」というか、本書を一度読み始めてからは、寝食を忘れて夢中になって読み進めてしまいました。本書には「事典」という標題が付せられており、たしかに本書の主要なコンテンツはドストエフスキー作品の登場人物に対する解説です。しかし、それはいわゆる辞書的な解説にとどまるものではなくて、ドストエフスキーの作品に対するひとつの解釈に貫かれたかたちで人物の奥行きを伝えるものとなっています。

 

また本書の大きな特徴は、ドストエフスキーの全小説をほぼ発表年代順に解説しているという点にもあります。登場人物の造形を通じての端的で要を得た作品解説は、まさに作品を読んでいなくても読んだ気分になれるほど的確なもの。本書末尾の「講談社学術文庫版刊行にあたって」において、作者がドストエフスキーの脱カルト化を意識している旨が述べられていますが、本書はドストエフスキー作品の小説としての面白さを総体として無駄のない仕方で伝えてくれます。

 

ネタバレもあるので(本来は文学作品の古典にネタバレも何もないのですが)、ドストエフスキーをまったく読んだことがないという人よりは、何冊か読んだ人におすすめの作品になっています。私自身、未読の中短編もいつか全集で読んでみたいと感じさせられました。

 

【満足度】★★★★★