文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

ミシェル・ウエルベック『ランサローテ島』

ミシェル・ウエルベック 野崎歓

ランサローテ島』 河出書房新社

 

ミシェル・ウエルベック(1957-)の『ランサローテ島』を読了しました。本書はウエルベックが『素粒子』に続いて発表した短編小説です。2000年に発表された本書は、ウエルベック自身が実際に撮影したというランサローテ島の写真集と小説とが、二冊合わせて箱に入ったものだったといいますが、この邦訳書においても、小説の前にその写真(の一部でしょうか)が配置されて、まるで火星のようであると評される無機質で荒涼とした島の風景を実際に確認することができます。

 

ランサローテ島はモロッコ西サハラにほど近い大西洋に浮かぶスペイン領の島。どこか無為な気持ちで年末の年始の休日を過ごすために島を訪れた主人公が、ベルギー人の中年男性リュディや、レズビアンのドイツ人カップルであるバルバラとパムらと出会い、島での時間の一部を彼らと共に過ごし、そしてフランスに帰国してからその中の一人に訪れた苦々しい運命を目にするというのが本作の粗筋です。

 

現代人の生きづらさを正面切って主題に取り上げるウエルベックが、カルトの問題を取り上げるのは必然だと思うのですが、その距離の取り方というのが本書においては微妙なところで、それは計算されてのことだとは思うのですが、少し危ういものも感じてしまいます。現代のツーリズムというテーマは興味深く、本作に続いて書かれた『ある島の可能性』も楽しみに読みたいと思います。

 

【満足度】★★★★☆