文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

大江健三郎『取り替え子』

大江健三郎

『取り替え子』 講談社文庫

 

大江健三郎の『取り替え子』を読了しました。もともと自身の私生活を文学的なモチーフを使って昇華しながら作品にしてきた大江氏ですが、本作の背景となっている俳優・映画監督の伊丹十三氏の自殺という出来事が、それ自体が大きく報道された出来事であるだけに、本作はより大きなインパクトをもって受け止められることになりました。

 

本書の内容はまったくセンセーショナルということはなくて、現実を誇張した様々なモチーフに仮託した意味を主人公が解きほぐしていくなかで、ひとつの気付きを得ていくといういつもの大江氏の作品です。その展開が収斂していくというよりも、むしろ分散していくようである様は、現実の多義性を示しているということなのでしょうか。

 

【満足度】★★★☆☆