『一人称単数』 文藝春秋
村上春樹の『一人称単数』を読了しました。2018年から2020年にかけて雑誌『文學界』に発表された7本の短編作品と書き下ろし作品1編を含む短編集です。これまでの人生を少しずつ総決算していくというと、いささか大げさな言い方になってしまうのですが、村上氏の個人的な来歴がとりわけ色濃く反映された作品集という印象です。
村上氏のファンにとってはお馴染みの「ヤクルトスワローズ詩集」について語った短編作品はもとより、ビートルズのヒット曲をBGMに時代の流れと流れに取り残されたものが描かれる「ウィズ・ザ・ビートルズ With the Beatles」など、自らが生きてきた時代への眼差しが強く表れているように感じられました。個人的に面白かったのは「クリーム」という作品で、「人生のクリーム」「中心がいくつもあって外周を持たない円」という表現でもって、村上氏は自身が一貫して提示してきたテーマに新しい言葉を与えることに成功したのではないかと思います。
【満足度】★★★★☆