文学・会議

海外文学を中心に、読書の備忘録です。

スティーヴ・エリクソン『きみを夢みて』

ティーヴ・エリクソン 越川芳明訳

『きみを夢みて』 ちくま文庫

 

ティーヴ・エリクソン(1950-)の『きみを夢みて』を読了しました。原題は“These Dreams Of You”でヴァン・モリソンが1970年に発表したアルバムの収録曲名から取られています。2007年にエリクソンが発表した『ゼロヴィル』に続く長編作品として本書が刊行されたのは2012年のことで、その間にはアフリカ系アメリカ人として史上初めてバラク・オバマが大統領に就任しています。そうした時代背景が色濃く反映されるかたちで、本書の物語も進行していきます。

 

本書の主役はロサンゼルスの街外れにある渓谷に暮らす家族で、父親で作家のザン、妻のヴィヴ、息子のパーカー、そしてエチオピアの孤児院から養子に迎えたシバの4名。経済的な困窮、古い知り合いに招かれて訪問するロンドンの街、シバの本当の母親を探すためにエチオピアへと赴くヴィヴ、ザンが夢想する小説の物語、アメリカの現在・そして歴史、そうした一切のものが魔術的に溶け合いながら、短い断章を積み重ねるかたちで紡がれていきます。久しぶりに小説の面白さを感じさせられる作品で、とても楽しく読むことができました。

 

【満足度】★★★★☆